第7話 女勇者ユウカの危険な日常

「さすがだな勇者よ。だがな人間の悪しき心が存在する限り、何度でも蘇る……」

「うるさいわね、早く消えなさいよ!」


【地面に這いつくばる瀕死の魔王に、追い打ちの蹴りをあびせる女勇者ユウカ!】


「外見が普通の人間のおっさんみたいだから、完全に消滅させるのは忍びなく思って、とどめは刺さないでおいたけど。

 あんまりしつこいと、今度は原子レベルで消し去るわよ!」

「うっ……」


【恫喝するユウカに、身を震わす魔王!】


「二度と私にこんなことさせるんじゃないわよ!! いいわね!! ったく、手間どらせて!」


【女勇者ユウカは魔王討伐を、16時間47分51秒という最速タイでRTAしたのだった!!】


「また敵わなかったのか……」

「大丈夫ですか? 魔王様?」


【ユウカが去った後、瀕死の魔王に歩み寄る参謀の悪女神】


「お前、今までどこにいたんだ?」

「そこの柱の裏に隠れておりました」


「俺がこんな状態に陥っても、助けようとはしなかったのか?」

「私が到底敵う相手ではありませんので」


「このまま、負けたままでは終われない……」

「もう諦めたらどうですか? あの者は強すぎます」


「俺のプライドが許さん。今度こそは……」

「今度こそ、魔王様が消されますよ?」


【どうしても女勇者に勝ちたい魔王なのであった】


「魔王様、正面から挑んでも同じことの繰り返しです。ここはひとつ、あの勇者の弱点を見つけるのです」

「あの勇者に弱点など、存在するのか?」


「あの様子、なにやら故郷に大切なものを置いて来ている様子。それが気がかりで、こうして急いで戻ろうとしているのでしょう」

「なるほど、ということは……」


「私たちも、あの勇者の居る世界へと追いかけるのです。そしてそこで弱みを握れば……」



【魔王を最速で倒し、再び元の世界に戻って来た女勇者 柚木優花ユズキユウカ

 何事もなかったかのように、愛しの想い人、明守と幸せな日々を送るのであった】


「明守くん、今日は久しぶりに明守くんの家で、のんびりしたいなー」

「え? 今日も? 昨日もずーっと一緒にいたよね?」


「これからも、ずーっと一緒だよ」

「え? う、うん」


【しかし、この日々も長くは続かなかったのだ!

 ある日、二人の通う学校に謎の転校生がやって来たのだった!】

 この世の人とは思えないくらいの絶世の美男美女の二人。同時に、しかもユウカたちと同じクラスに!】


「俺は大間おおまだ。苦しゅうない。良きに計らえ」

「私は、召神めがみと申します。以後、お見知りおきを」


【イケメンの男子高校生に扮した魔王は周囲の女子を虜にし、

 美少女の容貌をもつ参謀の女神は、その美貌で男子たちを魅了した!】


 あいつら!!


【人間に扮するも、微弱な魔力を感じ取ったユウカは、瞬時にその正体を察したのだった!

 さっそくユウカは、休憩時間に二人をひと気のない体育館裏まで呼びつける!】


「あんたたち! いい加減にしなさいよ! こんなところまでやって来て、どうするつもり!」

「なにを人聞きの悪い。俺は心を改めて、お前の住む世界とやらを堪能してみたくなっただけのこと」


「嘘つくんじゃないわよ!」 


【ユウカは魔王の胸ぐらを掴む!】


「おいおい、そんなことしていいのか?

 ここは日本という国だろ。力によって相手を損傷したら、刑法第204条で傷害罪に……」


【ユウカの正義の無慈悲な鉄拳が、魔王の顔面に炸裂する!!】


「グフオヲォォー!! お、おい、召神! 話が違うじゃないか! 勇者は手を出せないと……」

「おかしいですわね~ 事前情報によりますと、この国には法律というものが……」


「法はこの世界の人間にしか適応しないのよ! あんたたちは関係ないから、ここで安らかに消えなさい!」

「ひっ!!」


【ユウカは再び鋼と化した拳を振り上げた!!】


「あ、いたいた! みんな、こんなところにいたんだ」

「あ、明守くん!?」


【まさにとどめを刺そうとした瞬間、その場に明守が現れた!!】


「優花ちゃん、もう二人と仲良くなったんだね」

「え? あ? え? え、ええ、そ、そうよ」


【ユウカは慌てて魔王を放つ。そしてここぞとばかりに明守にすがりつく魔王!】


「おお、わが友、明守よ!」


 ……はあ?


「明守様!

 早く学校を案内してください!」


 はあああ!?


【ユウカを差し置いて、睦まじく話始める三人。

 そう、魔王と参謀はユウカの想い人である明守に接近し、自分たちの陣営に取り込む作戦に出たのだった!】


「あ、ああ、あ、明守くん? その二人は……」

「ああ、まだこの国や学校にも慣れてないみたいで、僕がいろいろと教えてあげることになったんだ」


【驚きわななくユウカを、不敵な笑みで眺める魔王と参謀】


「上手くいきそうですわね、魔王様」

「あ、ああ、だがあやつ、激高しているぞ? 俺と対峙した時でも見せなかったぞ、あんな様子……

 これ、弱点というよりか、逆鱗、というやつじゃないのか?」


「逆に、こちらの手中にあれば、危害は加えられないということです」

「そ、そうだろうが……勇者の怒り具合は度が過ぎるぞ!」


 あの女! 私の明守くんに馴れ馴れしく話しかけて! 

 ちょっと私よりも胸があって、まあまあ可愛いからって!!

 明守くんを、たぶらかそうとして!

 そんなことで明守くんの心が奪われるはずない!


 ……でも、


 もし、


 明守くんに手を出すようなかとがあれば!!



 許・さ・な・い!!!



「大丈夫か召神? お前に物凄い敵意を向けているぞ?」

「なるほど……やはり勇者の弱点は、この男のようですね。

 あぁ、もの凄い殺気を感じますわ~

 生死を分かつこの局面、いつ感じても痺れますわぁ!」


【まさに二人は女勇者ユウカの逆鱗に触れようとしていた!!】


「じゃあ、二人とも、案内するね。優花ちゃんも一緒に行こう」

「え゛え゛!! もちろんよ!!」


 こいつら!

 私を倒すために、ここまでやって来て。

 それで明守くんを人質にでもしようと!?

 やはり消し去っておくべきだったわ!!


【こうして女勇者ユウカの、苦難の日常は続くのであった……】





 ―――あとがき―――


 コンテスト文字数制限のため、ここで一度完結です。

 機会がありましたら、続くかもしれませんし、ほったらかしかもしれません。

 という感じですので、またどこかの作品でお会いしましょう。

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女勇者ユウカの帰還 ~レベルカンストして魔王を倒し現世に戻った私は、愛しの彼氏の前でか弱い少女を演じる~ 夜狩仁志 @yokari-hitosi

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