第6話 女勇者ユウカの再召喚

 やっぱり現代日本はいいわね。

 娯楽が多いし、何でも手に入るし、食べ物は美味しいし。

 でも、こればっかりは何度やっても慣れないわね。


【女勇者 柚木優花は退屈だった!

 女子高生である優花は、学生の本分である授業を、今日も朝から教室で受けていたのだ】


【教師以外の声のしない教室で、生徒たちは集中し講義に耳を傾けている。

 その中で一人だけ、まったく教師の話を聞かず板書も見ようとしない生徒がいた。

 それは、女勇者ユウカだった!】


 なんでこうも授業って退屈なのかしら?

 異世界での魔法教室も、これ以上に退屈な時間だったけど。


 ……でも、後ろから明守くんの姿を眺めているだけで、数時間やり過ごすことが出来るわ。

 昼休みまであと40分の辛抱よ。


【どこにでもある、ありふれた高校の教室内。

 しかし、この教室内に異変が起きようとしていた!

 虫の鳴き声のような小さな声で、女勇者ユウカの名を叫ぶ声が聞こえるのだった!】


「…………勇者様! ユウカ様!!」

「……」


「ユウカ様! ユウカさまー!!」

「…………」


 おかしいわ。久しぶりの授業のせいで頭を使って、幻聴が聞こえるようになるなんて……


 ……しかも、聞き覚えのあるような?


 ……小さく甲高い、子どものような声。


 これはたしか……異世界で出会った妖精、ピクシスとかいった妖精の声に似てるわね。


 手のひらに乗るくらいの人形サイズの体に、蝶だか蝉みたいな羽の生えた生き物。

 魔王討伐の旅に同伴し、苦楽を共にした仲間。

 たいして役に立たなかったけど、付近を偵察させるのにはちょうどよかったわ。


 そうそう、ちょうど目の前に飛んでいる虫のような、こんな姿してたわね。


「ユウカさま――!!」


 え?

 もしかして、今、目の前で飛んでるのって?

 幻視?

 どうやら目までおかしくなっちゃったかしら?


「大変なんです! ユウカ様! 魔王がまた復活しちゃったんです!」

「…………」


【ユウカは妖精の悲痛な訴えを無視し、見えなかったことにした!】


「ボクたちの世界が、また危険なんです! ユウカ様の力がまた必要なんです!!」

「…………」


「ユ・ウ・カ・さ・ま!!!」

「チッ!! うるさいわね! 耳元で怒鳴らないでよ!」


【妖精の姿は他の人間には見えず、声も聞こえないのだった! ユウカは小声で呟くように答える】


「そんなこと、知らないわよ、もう、私には関係ないから!」

「そんなこと、おっしゃらないで! 助けてください!」


「他力本願もいいところよ。そろそろ自分たちの力で何とかしなさい!」

「いろいろと頑張ってみたんです。でも、もう最後の頼みはユウカ様だけなんです!」


「…………」


【ユウカは再び無視をした!!】


 なんでまた私がそんなことしなくちゃいけないのよ!

 これ以上、私の平和で平穏な明守くんとの日常を壊さないでくれる!?

 しかもこんな時に、学校にまでやって来て!


「ユウカ様! お願いします! ユウカ様!」


【夜中に寝ている時に飛び回る蚊のように、非常に耳障りで気が散ることこの上ない叫び声】


「ユウカ様!!


 美しくて力強い、ユウカ様!


 女神様!! 勇者様!! ユウカ様!!


 ボクたちの光! 輝かしい未来! 希望!!」



【苛立ちが積もるユウカは、ついに限界点を超えた!!】



「うるさいわね!!!


 いい加減にしなさいよ!! 


 その話は聞き飽きたのよ!!


 ……あっ!?」



【耐え切れず、席を立ちあがり怒鳴り声を上げるユウカ!

 静寂な教室を切り裂き、一同の視線を一身に受けることに!!】



「柚木……そんなに先生の話がつまらないのか?」


【教壇の教師が鋭い眼差しを向ける!】


 し、しまった! つい大声で!


【周りの生徒から白い目で見られ、

 教師からは詰問の視線、

 それよりもなお、明守からの疑念の眼差し!

 これが一番、ユウカには耐えられなかったのだ!!】


 いや!

 明守くんが、頭のおかしい人を憐れむような眼差しで私のことを見ている!?

 このままだと私! 変人扱いされる! それだけは嫌!!

 明守くんだけには嫌われたくない!!


「ちょっとあなた、なんとかしなさいよ!」


【ユウカは妖精を鷲掴みにし、責めあげる!】


「このままだと、私、ここで生きていけなくなるのよ!」

「でしたら、ボクたちの世界で暮らしましょう」


「このまま握りつぶすわよ! そ、そうだ! たしか……?

 あなた、相手を眠らせたりする魔法、唱えられてでしょ?」


 今この教室にいる人、全員を眠らせて、なかったことにすれば……

 私の奇行を見なかったことにできる?かも?? 


「…………」

「ちょっと聞いてるの!」


「……魔王を倒してくれますか?」

「くっ、こっ、このぉ!」


「……じゃあ、諦めて帰ります」

「分かった! 分かったから! この場をなんとかして!」


「分かりました。約束ですよ」


【こうして妖精の魔法によって、クラス全体は眠りに包まれた!

 そして数分後に目を覚まし、ついさっきまでの記憶は夢と共に消え去ってしまったのだった!】


【こうして女勇者ユウカは、魔王再討伐を条件に、平穏な学生生活と最愛の彼氏、明守からの信頼を失われることから回避することが出来たのだった!!】



「さあ、今すぐ向かいましょう、ユウカ様!」

「せめて学校が終わってから……」


「一刻も争うのです! 今すぐ向かいましょう!」

「くっ……そお!!」


 この恨みは、全て魔王にぶつけてやるわ!!! 


【かくして女勇者ユウカは、魔王再討伐の旅に向かうのであった!!】

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