第5話 女勇者ユウカと不良男

【女勇者 柚木優花ゆずき ゆうかは今日も彼氏である明守と共に下校していた。 

 道中、コンビニに用事があった明守は、外でユウカを待たせ一人買い物に行くのだった。

 そして、夕暮れ時に一人たたずむ美少女に、地元の不良どもの影が忍び寄るのだった!】


【女勇者ユウカの目の前に、3人の男が近寄る。派手な髪型と身なり。見るからにヤンキーそのものだった!】


「なぁ、君さぁ~ 一人で暇してんの?」

「俺たちとさぁ~これから楽しいこと、しない?」


【外道スライム以下の雑魚敵に、眼中にも入らない女勇者ユウカ!】


 明守くん、コンビニになんの用事かしら?

 私のために何か買ってきてくれるのかしら?

 私、好き嫌いないからね。

 なんでも食べるし飲むわよ。

 でも、一番の好物は明守くんよ!!


 ちょうど喉が渇いてきたから、飲み物でも買ってきてくれるのかな?

 できれば明守くんとシェアしたいわね。

 一本のペットボトルを二人で飲み合いながら帰るなんて……

 素敵じゃない!

 まさに青春!

 でも、明守くんのことは独り占めしたいけど!


【女勇者ユウカは妄想にふけっていた!】


「おい、姉ちゃんよ! 聞いてんのかよ!!」

「…………え? あ、はい? 私のこと、ですか?」


【ようやくその存在を認識したユウカ。女勇者にとって、このような輩を蹴散らすこと雑作もなかった。しかしここは現代の法治国家日本。力でねじ伏せることは、社会的に問題だということは、ユウカも重々承知していた。

 ましてや彼の目の前で、己の持つ強大な力を見せることは、ユウカ的に抵抗があったのだ】


「すみません、私、彼氏を待ってますので……」


「ああ? 彼氏~? もしかして、それって俺のことかぁ~?」

「そんなやつ待ってても来ねーって!」

「だれだか知んねーが、俺たちの方が、もっと気持ちよくさせてやんよ!」


【女勇者ユウカの前に現れたヤンキーは、スライム並みに知能が低かった!】


 面倒臭い人間ね。

 明守くんの足元にも及ばない、下賤な生き物。

 騒ぎにしたくないから、どうやって穏便に追い返そうかしら?


【三人に囲まれながら、その対処法に悩む女勇者ユウカ。

 そこに明守が戻ってくるのだった!】


「あ、あの、なにしてるんですか!!」

「「「あぁん?」」」


【取り囲まれたユウカを目にした明守は、体格的にも人数でも劣るなか、果敢にもユウカを助けようと不良どもに挑むのだった!】


 あ、明守くん!

 まさか、私を守るために!?

 3対1じゃあ、到底かなわない相手。しかも体格でも全然負けてる。

 にもかかわらず私のために勇猛果敢に立ち向かうなんて!

 あぁ、なんて素敵なヒーローなのかしら!


【女勇者ユウカは感動していた!】


「てめー 女の前だからって、調子にのんなよ!! おらぁ!!」

「うっ……」


【多勢に無勢。ひたすら殴られる彼の姿に、なぜか恍惚と見惚れてしまうユウカ!?】


 明守くんが私のために、体をはってくれている!


【そしてそのまま殴り倒される明守。ヤンキーは倒れ込んだ彼から財布を抜き取ると、そのまま去っていったのだった!】


「あ! 明守くん!!」


【ようやく我に返るユウカは、ボロボロになった彼へ慌てて駆け寄る】


「大丈夫?」

「う、うん」


「ごめんなさい。私のために」

「よかった、優花ちゃんに怪我がなくて」


【自分のことよりも愛する者を気遣う明守。自己犠牲と正義感、大切な人を守る強い意思。

 彼こそ勇者の称号に相応しい人間だった!!】


 ごめんね、明守くん。その勇姿に見とれちゃって、助けられなくて……


【ユウカは傷ついた彼を、回復魔法でこっそり治癒する】


「ちょっとここで待っててくれる。薬買ってくるから」

「え? う、うん、ありがとう」


【ユウカはその場に明守を座らせて、男たちの後を追った!

 男たちはさほど遠くではない、路地裏にたむろしていた】


「あ? おめーは? さっきの?」

「やっぱ、あんな弱っちー奴より、俺たちと遊ぶ気になったんかぃ?」


【ユウカは無言で近づいていく!】


「おいおい、こんな人気のねーところで、ナニすんだ? おとなしい顔して、昼間から大胆だなぁ~」


【その瞬間、目にも止まらぬ早さで、ユウカの鉄拳が男の顔面を陥没させる!!

 水分の多い果物が鈍く潰れる音を放ちながら、後方へと吹っ飛ぶ男!!】


「お、お前なにやって……」


【加勢しに来た男は、ユウカの一振りの手刀により腕をへし折られ、その勢いのまま胴体にまでめり込む!!】


「ひいっ!!」


【目の前の光景に恐れをなして逃げようとする男に、今度はユウカの回し蹴りが、男の両足をくの字に粉砕させる!!】


「あんたたち! 私の彼に、なんてことしてくれんのよ!!」


【女勇者の仕返しは、倍返しではすまなかった!!】


【ユウカは瀕死の男たちを摘まみ上げ一列に並べると、回復魔法で完治させ、土下座させる】


「二度とこんなことするんじゃないわよぉ! ええ!?」


「「「す……すんませんでした」」」


「お財布を返しなさい」

「……はい」


【奪われた明守の財布を、男から受け取るユウカ】


「……って、なんで中身が五千円しか入ってないのよ!?」

「え? さ、最初から、い、いや、俺たち、盗ってなんか……」


「彼が五千円しか持ってないはず、ないでしょうがー!!」

「はあ!?」


「彼はいつでも10万位は持っているはずなのよ! いつでもどこでも私と高級レストランに寄れるくらいの、そのまま高級ホテルにとまれる程の金額は持ち歩いているのよ!!」

「そ、そんこと知らねーって」


「おらぁ!  早く盗った金、全部出しなさいよ! ええ!?」

「そ、そんな、無茶苦茶な!?」


【そう! 女勇者ユウカは無茶苦茶だった!!」


「チッ! 全部で5万か。まあ、しょうがないわね」

「…………」


【無事に財布を取り戻し、金銭をまきあげたユウカ】


「二度と私たちの前に出てくるんじゃないわよ!」

「「「はい」」」


【女勇者ユウカは不良男三人を倒した。五万円を手に入れた!】


「明守くんー!! お財布取り返して来たわよー」


【悪を成敗し、臨時収入を手に入れたユウカは、ご機嫌で明守のところへと戻ってくる】


「えっ!? 本当に? ありがとう。でもどうやって?」

「話せば分かってもらえたわよ」


「あれ? お金が? 増えてる??」

「もちろん、敵を倒したからねっ。経験値はもうカンストしてるから貰えないけど」


「敵? 経験値?」

「え? ううん、なんでもないの。私の独り言」


【異世界では、

 敵を倒してゴールドをせしめ、

 民家に押し入って勝手に物色し、

 洞窟の埋蔵品を手に入れる。


 これぞ勇者であるユウカの特権なのだった!!】

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