パイロット版2 盗まれたバイクと時間怪盗2/2
夜。破嵐探偵事務所も閉店時間を迎えた。事務所の上の階にある居住スペースで夕飯を俺が作ろうとしていると電話が鳴った。
「探している少年が見つかった。これは不味いぞ。時間怪盗になっている」
情報屋の慌てた声が聞こえる。
「住所教えてください。すぐ向かうので」
電話を切る。エプロンを椅子に投げかける。
「何かあったのかい?」
私服の赤いジャージに着換え、ソファーに寝転がって『週刊少年サンデー』を読んでいたウイヒメが尋ねる。
「時間怪盗が出た。済まないが夕飯は自分で食べていてくれ」
そう言って部屋を飛び出てバイクで依頼人の元に向かう。
依頼人の部屋はマンションの十階だった。
「装着!」
緊急時なので仮面バトラーレンズに変身して、扉を蹴り破る。
時間怪盗のタイムレンズと同じ技術で作られた赤い眼鏡は念じながら『装着』と声に出すと変身する。時間を操作できる機能のみならず、身体能力も強化される。
「何もかも壊れろ!!」
極彩色に輝くナイフで時間を盗まれた依頼人が時間怪盗によって、窓から投擲される。時間を盗まれた状態の人間は物理的に変化を加えることができない。高所から落ちても問題ない。今は時間怪盗を倒し、これ以上の被害を防ぐだけだ。
時間怪盗の黒い全身スーツの胸部から背部にかけてバイクの細いタイヤが貫通している。両腕はバイクのマフラーのようなものが絡みついている。
「レンズを付けられ暴走しているのか」
「違う!これは俺が選んだ!」
時間怪盗に成りたてで精神が高揚しているな。冷静になられるとむしろ慎重になって倒すのが面倒だ。さっさと決めよう。
まず牽制で椅子を投げる。これは当然ナイフで切り払われる。
振ったナイフを戻すより早く相手の懐に踏み込む。掌を顔面にぶつけてレンズを破壊してやる。
掌が空を掴んだ。時間怪盗は自ら床に倒れ、胴体に付いたバイクで走り、窓から部屋を飛び出した。俺も追って窓から飛び出す。
「自由!何処までも走る俺のバイク!」
「それは違う!そのバイクはお前のバイクじゃない!お前は自分のバイクで走るべきだ!」
空中落下の中で時間怪盗に追いつくには俺の落下速度を早くする必要がある。
「十倍速ッ!」
十倍の速度で落下し、俺の靴底で時間怪盗のレンズを割る。依頼人のバイクがバラバラの状態で空中に放り出される。
そして先に着地し、少年をキャッチする。
それからはまあ、親子の感動の再会があったりするが詳細は伏す。
いややっぱり具体的に言うと少年が時間の戻った父親をぶん殴ったりしていた。
「うんうん。良い絵面だな。しばらく会えないんだからお互いの気持ちをぶつけ合わないとね」
いつの間にか薄羽刑事がやってきていて、暖かい眼差しを向けていた。
時間窃盗について定める法律によれば未成年者でも一発で実刑になる。しばらく外界の空気は吸えないだろう。しかし少年が時間怪盗である証明する物証は砕けたタイムレンズの欠片くらいしかない。
更に更に時間怪盗が時間窃盗の罪状で刑務所に入った例はまだ無い。だいたい別の罪状で刑務所送りになる。つまり何が言いたいかというとまだ何も分からないということだ。
「バイクはまた買い直せばいいけど、人命は買い直せないからね」
ウイヒメが依頼人から貰った茶菓子を食べながら総括する。
甘いものはみんな大好きだろう。食べ過ぎると健康に悪いが。
「俺の『レンズ』でもバイクを元の状態まで巻き戻せるが」
俺の『レンズ』も時間怪盗同様に時間を操作することができる。俺は他人から時間を盗ってないので自前の時間を使うしかないが。時間切れになると、生きても死んでもいない状態になるからあまり使いたくはない。
「それは最後の手段だよ。人間の時間は有限なんだから」
ウイヒメの言う通りだ。これで完全に気を抜いて事務所のソファーの上に寝転がっていなければ様になるんだが。
【パイロット版】仮面バトラーレンズ 上面 @zx3dxxx
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