思いきり、濡れて

みこと。

全一話

 なめらかに丸みを帯びた体はほどよく引き締まり、柔軟さを持ってなまめかしくれている。

 私は身をよじって、目の前の彼にしたがう。


 私の前に立つのは逞しい男性。


 じっと彼を見つめる。

 彼が出す指示を、ひとつも見逃すことのないように。


 だって彼の言うことを聞いたら、素敵なご褒美が貰えるもの。

 上手に出来たら、とても褒めてくれるわ。



(あっ、指令オーダー!)



 即座に反応する。


 さっと身をひるがえし、クンと体を引くと、水を割って加速する。

 充分にためてからの跳躍。

 そして。




 バッシャアアアアアン!!




 盛大に、水しぶきが上がった。


「キャアアアア」

 観客席から、声が上がる。


 そうでしょう、そうでしょう。

 いまのは水かけジャンプよ。


 いつもなら頭からスマートに着水するところを、わざと体側面で水に落ち、大量の水を跳ね上げるのが目的だもの。


 ちょっと痛いのが難点。

 でも結構皮膚も剥がれ落ちるから、いい。


 私たちイルカの新陳代謝は、人間ヒトの約336倍。

 2時間に一度、皮膚が変わる。

 十分に入れ替えてないと、つるつるな表皮にならない。

 ザラつく肌は小さな渦を発生させ、水の抵抗を生んで速度を弱める。

 

 筋肉量に対して遊泳速度がトップクラスな理由は、つややかな皮膚に秘密があるのよね!

 ふふっ、イルカ豆知識。



 夏が近づく。

 ウチのイルカショーも水かけ指示が増えそう。


 今度のご褒美は、氷がいいなぁ。


 お魚も好きだけど、氷も大好きなんだよね!!



    《おわり》

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思いきり、濡れて みこと。 @miraca

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