第2話 伊藤 美由
私の友達、ちょっと変わってるんです。
その友達は同じクラスの子で、それなりに話す子だったんです。でも人付き合いがそんなに上手くないのか、私が別の子と話している時は1人でいるようなことが多かった子でした。でも、だからと言って私は彼女のことを別に嫌ってなんかいませんでした。むしろ友達として私、彼女のことは好きだったんです。いや、別に今は嫌いになったってわけではないんですけどね…。ただ、今はそんなに話したりすることもないんです。いや、話せなくなった、の方が適切かもしれませんね。
きっかけですか?そうですね…、以前、休日に突然彼女に呼び出されたことがあるんです。今からスタバ来れない?って言われて、何の用なのかはわからなかったですが、特に断る理由もなかったので、私は彼女の待つスタバに向かいました。
私が着いた時、彼女はもう先に席に座って待っているとのことでした。私はフラペチーノを買ってから彼女を探したんです。彼女は私の方に背を向けて、4人席のテーブルに座っていました。
私は彼女の向かい側に座りました。私は「
「彼氏を紹介したかったの」
って、そう言ったんです。男の子と話をしているところをあまりみたことがなかったので、驚きましたね。でもその時テーブルには私と彼女しかいなかったので、まだ彼氏さんは到着してないのかなって思ってたんです。そしたら彼女、もじもじして、恥ずかしそうに、自分の席の横を手で指すんです。私が彼女との接し方がわからなくなったのはその後の言葉がきっかけでした。
「こちら私の彼氏の
はい、そうなんです。今テーブルには私と彼女しかいないんです。だけど彼女は誰もいない席を指して彼氏を紹介している。何を言っているのかわかりませんでした。だって彼女の指す方には誰も居ないんですから。きっと私が困惑してるのが顔に出てしまっていたんだと思うんですけど、「あぁ、ごめんね。雄也くん身長が大きくないから見えないか。雄也くん、テーブルの上に座ってもらっても良い?」って言って、彼女は隣の椅子の座面に手を伸ばしました。ここで私はあれ?って思ったんです。というのも彼女、座面に手を伸ばしたんですけど、その席、私がくる前から後ろに下がってたんです。なんて言うか、まるで私がいる前から誰かいたみたいな。
彼女は改めて口を開きました。
「改めて、私の彼氏の雄也くんです」
そう言って彼女が紹介してくれたのは熊のぬいぐるみでした。はい、本当なんです。紛れもない、熊のぬいぐるみでした。所謂テディベアってやつです。私は最初意味がわからなくて、私を
彼女はそんな私を気にも留めない様子でぬいぐるみに向かって「ほらっ、挨拶して?」なんて言ってるんです。正直言ってかなり怖かったです。それから彼女は2人…になるんですかね、楽しげに会話をした後、私に彼氏…さんの良いところを熱弁してくれました。私はずっと混乱してたので彼女の話はほとんど右から左で、心にもない相槌を半ば無意識に打っていました。話を聞けていないことを悟られないために、ストローをずっと咥えていたのですが、彼女は突然押し黙りました。それからちょっとしてぽつりと、少し寂しげに話し始めたんです。
「私たち、身長差カップルじゃん…?一般的には男の子が高くて、女の子が低いのがそれだって言われてると思うんだけど、私たちは逆。だからおかしいって言われるんじゃないかって不安だったんだけど…、やっぱり
身長差カップル。一瞬その言葉の意味がわからなかったと言っても過言ではありませんでした。彼女は私が気にも留めなかったところを気にしていました。私はそんなこと思ってもみなかったんです。こんなこと面と向かっては言えないですけど、とてもカップルには見えないんですから。私の目には人とぬいぐるみしか写っていないんですから。私はそこで彼女とこれ以上話していたらダメだって思ったんです。それは決して彼女が悪いのではなくて、私の理解力の問題でした。あまりに理解が及ばない世界だったので、怖くなってしまったんです。それでその後、今日は塾なんだって嘘をついて、とっくになくなっていたフラペチーノのカップを持って席を立ち、その日は家に帰りました。「それじゃあしょうがないね」と言って、優しく見送ってくれた彼女の優しさがすごく痛かったのをすごく鮮明に覚えています。
それからのことなんですけど、なんて言うか、彼女とどう向き合ったら良いかがわからなくなったんです。帰ってから調べてみて、そこで初めて対物性愛者って呼ばれる方々がいらっしゃるってことも知りました。ですが、実際に調べるまで私はそのような方々がこの世界にいるということは知りませんでした。今まで私の身の回りにはそのような人はいなかったですし、言葉は適切ではないかもしれないんですが、LGBTQって言葉で全ての人間を振り分けることができると思ってたんですね。世界にはいろんなセクシャルの人がいる、それはよく分かってたつもりでした。そう思ってたんです。だけど現実は違った。私の想像のつく
きっと彼女がいなかったらそれには気づかなかったですし、そういう点で彼女には感謝してるんですが…。はい、そうなんです。やっぱり彼女とどう接して良いかがわからないんです。別に彼女をおかしいとも思わない。さっきも言った通り世の中には色んな人がいるんですから。
だけど、未知の世界に出会ってしまって、どうしたら良いのかがわからないんです。彼女という自分が触れたことのない存在が突然現れてしまったから。彼女のことを受け入れたいって気持ちはもちろんあります。だけど、彼女は普通という言葉が含むものが大幅に広がった現在で普通の外側にいる。実際、LGBTQという言葉は対物性愛者という言葉を含んでいないですから。
さっきも言いましたが、私は彼女をおかしいと言うつもりはさらさらないんです。広まった普通から外れているからと、彼女を攻撃するつもりもないです。ただ、私にはありのままの彼女を受け入れる自信がない。まるで街に溢れかえるありきたりなカップルであるかのように、ぬいぐるみに話しかける彼女を。今まで通り接するのが良いんだろうけど、私がこんな感情を抱いてるうちはそれはできないような気がしているんです。
私はどうしたら良いんですかね…。ずっと、悩んでるんです。それで答えも出なくて…。
もしあなたが私だったらどうするでしょうか。もしかしたらなにかのヒントになるかもしれない。あなたは彼女を受け入れられますか?そして、私はどうやったら彼女を受け入れられるでしょうか?
良ければ教えてください。
告白 のむら @relu34972
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます