神社は使い続けろ

@tanchiiii567

下手すぎ

田舎の神社見たことあるか?

いや、都会のとも違うんだよ。

都会にあるのはちゃんと一箇所一箇所周りの住民に使われてる感じするだろ? 

俺が言ってんのは山の隅っこの方にちょこんっと建てられてるさ、廃神社ってわけでもねえけど地元の参拝客もいねえようなやつだよ。

人が寄り付いてねえ神社はすぐ分かる。

参拝客が鈴をガラガラ鳴らすために揺する注連縄があるだろ、あれが汚ねえんだな。

黒ずんでたり、ヌメっとしてたり。

酷いやつだと触れるまでもねえ、近づけば虫がたかってんのが見えんだから。

あれじゃあ地元民だろうと旅行客だろうと引いちまって、鈴の音どころか銭の音すら寂しくなるばかりじゃねえかな。

少し遠出してそういう神社を見るたびに、俺は爺ちゃんから聞いた話を思い出すんだよ。



爺ちゃんがガキの頃の話だから70年くらい前か。爺ちゃんの地元は四方を山に囲まれた盆地でな、住民300人くらいの村で仲良くやってたらしいんだがあいにく作物には恵まれなかったんだと。ほら言うだろ、山の天気は変わりやすい、って。

今はじゃがいもだの玉ねぎだの何でも育ってるらしいが、昔のことは分からんね。

それでな、村の人たちは村の端っこ、山の麓にある毛赤間(けぜま)神社を豊作の神として崇めてたんだよ。

毎日各々が畑作業の前に手を合わせに行ったりしてな。

けっこう村人たちの信心も厚くて豊作の年には、年末に祭りを開くほどだったんだ。

祭りの実行委員が数人階段の上に作物を並べて立ってな、下に集まった村人たちに向かってみかんだのじゃがいもだのを掛け声とか感謝の言葉とか叫びながらばら撒くんだよ。

潤ったことに対する感謝だからばら撒く作物の中には店から買ってきたものが含まれてても良かったらしいな。

まあそんな感じで祭りは続いてたんだが、ある時村に鬼が来ちまってよ。

帰ってきたんだ。都会で懲役くらってたドラ息子達が。

3人の集まりで、村人たちは歓迎こそしなかったが渋々受け入れたよ。

もちろん、心底拒絶したかったろうが追い出したところで、これ以上他所様に迷惑かけられんのも嫌だったんだろ。そうするしかなかったのさ。

でまあ案の定そいつらは悪さするんだな。

畑荒らしたり、人の家の蔵の中無断で入って道具で遊んだり、あまつさえ村の資金にまで手を出そうとしたらしいな。

俺はその話を爺ちゃんから聞いた時、やってることまんま猿じゃねえかって笑ったんだけど、爺ちゃんの困った顔見るにまあ色々と推察できたよ。

3人全員妙にガタイ良くて声もでけえから、親と言い争いになる夜はそいつらがその親殺しちまうんじゃねえかって、村人たちは震えながら寝なきゃなんなかったらしいし。

でまあ、悪いことは重なるんだな。

ただでさえそのドラ息子達で頭を悩ませてたのに、不作まで続いちまった。

一向に雨が降らなかったり、今まで上手くやり合えてたネズミも手がつけられなくなってな、碌に食えるもんも少なくなった。

最初は健気に豊作を信じて村人たちも祈りを捧げてたよ。

でも一定以上生活が困窮すると信仰だのなんだの言ってられなくなるんだな。

年末の祭りも行われない。

祭りが開催されなくなると普段通いするのを気が引ける人が増える。

村の空気に影響されて神社を掃除する人がいなくなる。

鈴を鳴らす注連縄も汚くなって参拝客も減る。

という負の連鎖よ。

一度汚くなるとよ、誰も掃除しなかったら雑に扱っても良いやって、人はなっちゃうんだな。

そして人気のないところは大抵悪い奴らの溜まり場になる。

暇さえあれば3人組は毛赤間(けぜま)神社にたむろした。

あの時代にあの田舎の神社でどんな悪いことができるんだって、気にはなるんだけどよ。

まあ爺ちゃんもガキの頃であんまあの3人に近づかないよう親に言われてたから、知りようがないんだけどな。

しばらく続いた不作に不良3人組のダブルコンボ。色々な理由で村人は3割くらい消えちまった。

そして、爺ちゃんの親もその仲間に足を踏み入れた。

病だよ。

ガキの爺ちゃん残して2人の両親は床にふせて碌に起き上がれなくなった。

家の手伝いをしてたからそれなりに家事はできたが、子供1人で長くは続けられない。

幼い爺ちゃんは考えた。

お父さんとお母さんに元気になって欲しい。

昔大人たちがやっていたことはなんだっけ。

それで爺ちゃんは毛赤間神社に走った。

それでもあの3人組は怖い。

鳥居の3メートル離れた場所から爺ちゃんは境内の様子を伺った。

よかった。 

誰の気配もしない。

再び足を速めて鳥居を潜った爺ちゃんはすぐに足を止めた。

しばらくここにはきていなかったとはいえ、違和感にはすぐに気づいた。

注連縄、あんなに大きかったっけ。

普通、大人が片手で握れるくらいの太さなのに、目の前にあるのはその一回りも二回りも大きい。

それに色もはっきりと変だ。

あんなに濃くはなかったはずだ。

爺ちゃんはおずおずと近づいた。

注連縄に群がるように蠢く黒い点。

虫か?あれは。

まるで縄の中に巣でもあるかのような数だ。

爺ちゃんは目が良かった。

あれは縄じゃなくて縄に何か巻き付けてあるんじゃないかと疑ったけど、ちゃんと繊維みたいなキメは見えたんだとさ。

当たり前だけど爺ちゃんは怖くなって逃げ出した。

それ以上は進めなかった。

家に帰った爺ちゃんは、申し訳なさと不安とでがんじがらめの頭を、両親の腕の中に収めて眠りについた。



そしたら不思議なことでさ、数日後爺ちゃんの両親はケロッとしちまいやがってんの。

あんだけ命が危ないほど体を病んでたってのに。

呆気にとられたけど爺ちゃんはとにかく喜んだ。

両親が元気になって嬉しい、その気持ちでもういっぱいになってたんだよ。

そんな2人を追うように村の空気も良くなっていってな、同じく床にふせていた奴らも起き出して、みんなまた明るさを取り戻して作物の実りも良くなったんだよ。

村人たちにも余裕ができて、また祭りが久しぶりに開かれることになった。

階段の上に陣取った祭りの実行委員たちが、階下の村人に向かって作物をばら撒く。

みんなまた以前の、いやそれ以上の笑顔を浮かべて叫んだ。

「ありがとーーーー!!!」

「ありがとーーーーー!!!!」

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