冒険者パーティの見習い少年は勇者とともにパーティを抜ける〜追放から始まる物語は勇者といく〜

はるのはるか

追放から始まる物語は勇者と

 夢の中で見た、冒険者と名乗る人たちのことを今でも忘れられずにいる。


 忘れたくない夢、いつか実現させたいと強く思う夢での出来事に、僕は強い憧れを抱いている。


 邪悪なモンスターから人々を守る彼らの背中は、とても言葉に表し難い安心感があった。


 ただの夢だと笑われるかもしれないが、それが僕にとって冒険者になりたいと思ったきっかけだった。


「──おいルドっ!早くしろ、置いてっちまうぞ」


「あっ、うん。ごめん今行く」


 湿潤な森の中を歩き続けてもう何時間も経っているというのに、前を歩く彼らは全く疲れた様子もなく足早に行ってしまう。


 もちろんである彼らと、対してである僕とでは全てが違う。


 肩書きだけで本当は冒険者ですらなく、ただ冒険者パーティに居させてもらっているだけの存在でしかない。


「大丈夫ルドくん?まだもう少し休憩しようか」


「いえ、僕は大丈夫です。皆さんに迷惑はかけられないので……」


「そっか。いいぞルドくんその調子だ」


 そう言いながら、決して僕を追い越すことなく後ろから優しく声をかけてくれているのは、この冒険者パーティのリーダーであり、僕をこのパーティに見習いとして受け入れてくれたルミナさん。


 パーティに入った時から優しく接してもらっている唯一の人ではあるが、ルミナさんに決して甘えるようなことはしない。


 僕自身の決断でパーティに入ったのだから、やること全て僕一人でできなければここにいる資格なんかない。


 そんな心の声を読んでいるのかいないのか、ルミナさんは見守るだけで僕に救いの手を差し伸べたことは今の今まで一度もなかった。


「──モンスターだっ!構えろ!」


 先頭を歩くバルカンが叫んだと同時に剣を構えると、ほんのコンマ数秒後に他のパーティメンバーも武器を構えて即座に戦闘態勢へと入っていった。


「ルドくん、絶対私から離れちゃダメだからね」


「は、はい……ですが、モンスターは前からしか来てないのではないですか?」


「ラウディーウルフだよ。高い知性を持って集団で獲物を捕獲する、狩りのスペシャリストと言っても過言じゃないんじゃないかな」


 ルミナさんのその言葉とともに、全周囲から次々と姿を見せてきた。


 足跡ひとつ立たせず、あっという間に数十体のモンスターに囲まれてしまった。


 ゴロゴロと低い音を喉から発しながら、鋭い眼光と牙を向けてくる。


 僕では想像もできないような強敵と戦う冒険者たちについて行くと決めた時から、こういう場面に遭遇することは必然だったのかもしれないが、いざ目前にすると両足がブルブルと震えて思い通りに動かない。


 どんなに予習をしていても太刀打ちできないのが恐怖心なのだと実感した。


 どうしようもなく怖く感じてしまうと、もう何も考えられず身体がびくともしない。


 ──ポンっ…


 そうやって優しく僕の頭に手を置くルミナさんの横顔がすぐそこにあった。


「大丈夫だよ、ルドくん。君は私が絶対に守るから」


 その横顔におっとりとした表情など微塵もなく、ただただかっこよかった。


 腰に携えた長い鞘から、金属同士が擦れる音を奏でながら引き抜いた輝かしい剣。


 御伽話で何度も耳にしたその剣の名前は──グランディール


 遥か太古から今代まで受け継がれてきたその剣は、意志を持っていると言われ、相応しい人物の手に渡る。


 彼女──ルミナ・ジーバスこそが、今代の勇者である。


 麗しくも過激な剣の振る舞いは糸の如く流れるようにモンスターを切り裂いていく。


 そして常人とはかけ離れた身体能力で縦横無尽に飛び回るが如く剣を振るっている。


 これが、これこそ僕が憧れた冒険者の姿だ。


 人の限界を超えた超人的な身体能力、そして覚醒した冒険者は自分だけの特殊な能力も持っていると聞いたことがある。


「ごめんルドくん!あっちにモンスターが集まってるから少しだけここを離れるね」


「あっ、はい。分かりました」


 前方、バルカンら四人が大量のモンスターに囲まれて戦っているのが見える。


 こっちの方は、ルミナさんがあっという間に殲滅してしまい大量の残骸だけが転がっている。


「ありがとう。何かあったら絶対叫んでね」


「はいっ」


 優しい笑顔を向けたルミナさんは、ものすごいスピードで向こうへと行ってしまった。


 今までで一番モンスターの数が多く、生きては帰れないと思った瞬間にルミナさんがそんな僕の思いを全て断ち切ってくれた。


 僕はまだ覚醒すらしていない、常人となんら変わらない、何なら平均以下の筋力しかない。


 誰かに守ってもらわなければとっくに死んでしまうほど弱い。


 そんな自分がどうしようもなく嫌いで嫌いで仕方がない。


 冒険者になるという目標に、まるで近づけている気がしない。


「こうかな……」


 腰に身につけた一本の短剣を鞘から取り出し、先ほど目にしたルミナさんの動きを自らで再現しようと試みる。


 目に焼きつくほど綺麗だった。


 剣の長さは違えど、フォームはこんな感じだろうか。


 目で追えた範囲を身体で再現していく。


「ガゥ………」


 森の中からゆっくりとした足取りで一体のラウディーウルフが姿を現した。


「ッ……!」


 ルミナさんはいない、今は自分でどうにかしなければいけない。


 しかしよく見ると体格が他の個体と比べて幾分か小さい。


 背丈は僕と同じくらいだろうか。


 ラウディーウルフの子どもだ。


 相手側も慎重に僕の様子を伺っている。


 子どもだとしたら、他と比べて戦闘経験が少ないはずだ。


 しっかりと足音を立てて近寄ってきていたのもその証拠と言える。


 ここで怖気付いていたら、いつまで経っても冒険者にはなれないのではないか。


 そう思うと、この場で今すぐルミナさんを呼ぶという選択は僕の中にはなかった。


 いまだ数で押されて苦戦している様子の向こう側のみんなには迷惑はかけられない。


 互いに構えた直後、僕と相手側はほぼ同時に飛び出した。


 僕の顔目掛けて噛み付くように向かってきているのを見て、その下へ潜り喉へ短剣を刺す勢いで僕は飛び出した。


 予想は概ね当たってはいたが、同時に前足の鋭い爪を、下へ潜り込んだ僕の肩へ刺すということまでしていた。


「ッ……」


 先に僕の肩へ鋭利な爪が突き刺さり、奥へと食い込んだ。


 感じたことのない激痛が肩へ押し寄せてくる。


 それでも手を緩めることなく、短剣を握る手に一層強く力を込めた。


 今の僕にできる、渾身の一撃をモンスターの喉へ突き刺した。


 短剣の根本まで、最後まで力を抜くことなく刺し込んだ。


 やがて同時に地面へと倒れ込み、モンスターは喉から大量の出血をしてその場で死んだ。


 これが、僕の初めてのモンスター討伐となった。


「うっ………」


 肩の肉が抉られて半端ではない痛みが後になって更に追い打ちをかけてくる。


 一度力が抜けてしまうと、もう短剣を握る力なんて残っていない。


 だから僕は、背後から迫るモンスターに最後まで気づけなかった。


「──ルドくんっ!!」


 ルミナさんの僕を呼び声とともに、背後からボトッと重たいものが落ちる音がした。


 それはラウディーウルフの頭部だった。


 おそらくは、僕が倒した個体の親なのだろう。


 怒りに塗れた形相をしたまま首を切られて息絶えていた。


 その直後に、ルミナさんがものすごい形相で近寄ってきたのと同時に、向こう側で一人の悲鳴が森に響き渡った。





 街へは戻らず、森の浅い場所まで戻り仲間の遺体を埋葬した。


 この世界に形式的な墓場は存在しない。


 街へ連れ帰ったところでどうする術もないのだ。


 みんなで囲むようにして立ち、せめてもの祈りを捧げる。


 彼女の背後に迫っていたモンスターを斬ろうとしたルミナさんは、僕に迫るモンスターに気付き咄嗟に駆け出した。


 僕を選んだがために、彼女は後ろからモンスターに横腹を抉られたという。


 ルミナさんは、彼女よりも僕を優先した。


「………なんで、ルドを選んだ。仲間よりもそのガキを選ぶ意味を教えてくれねぇか………ルミナ」


 バルカンに問われるも、無言を貫くルミナさん。


 当然、僕が言えることなんて何もない。


 彼女よりも僕を優先させてしまった。


 バルカンの言う通り、仲間である彼女よりも僕が死ぬべきだったんだ。


「僕が、ルミナさんを……」


「やめてルドくん。私がきみを選んだの」


「でも……」


「責任感じてんなら……、このパーティを抜けろルド」


 その言葉を言われる覚悟は十分にあった。


 納得もしている。


「ルドくんが抜けるのなら、私もこのパーティから外させてもらう」


「えっ」


「なっ……なんでそうなるんだよ!?」


 代弁するかのように当然の反応をしてみせたバルカン。


「お前がいなきゃ、このパーティが成り立たなくなっちまう。このパーティのリーダーであり勇者のお前がいなくなったら──」


「リーダーとしての資質はきみの方が持ってるよバルカン。それに、勇者なんてただの肩書きに過ぎない。私がいなくてもパーティは十分に回るでしょ」


 キッパリと言い放つルミナさんを見て、そうさせてしまったのは僕のせいなんじゃないかと、そう思わずにはいられなかった。


「ルドくん、これは私の選択。だからきみが何かを思う必要はない」


「……はいっ」






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ふとストーリーが頭の中で浮かんだので思うがままに書いてみました

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