第5話 藍の秘密
先輩は大きな木の下で座るように催促してきた。
ここは先輩がいつも猫と寝ている場所だった。
私は戸惑いつつも先輩の隣に座った。
空はまだ綺麗な青空だ。
先輩はびすけっとを一枚出し私に渡してきた。
「内緒ね。」
そういえば、今日のおやつはびすけっとだった。
それをこの先輩は残していたのだろう。
決して、不味いわけでは無いのにどしてなのか。
私が不思議に思っていると、
先輩は困ったように笑って
「私、びすけっと食べれないのよ。」
呟いた。
びすけっとが食べれない、それはそれは苦手ということか。
私は好きだが、そういった人もいるだろうと私は解釈した。
「本当は好きなんだけどね。食べると肌が赤くなるの。」
そう言って、先輩は自分の腕を優しく撫でた。
私はその話を、その行動を、見て理解した。
「ぱんも食べられなくて、先生達は気合が足りないとか、
好き嫌いが多すぎるとか怒られちゃうんだ。」
先輩は頬を膨らませ、眉を寄せた。
先輩の表情は私よりもよく変わると、近くで見ていると改めて感じる。
先輩はいじけたような顔を止め、真剣な眼差しで空を見上げた。
「それでも私、生きたいから食べない。」
先輩はそう呟いた。
私に言ったというよりは、空に向かって誓っていた。
「誰になんと言われようと、私は寿命いっぱい生きるの。」
先輩は手を組んで、目を閉じた。
私は先輩の過去の事は一切分からない。
けれども、先輩が相当な覚悟で生きていることだけはわかった。
「い、いいと思いますよ・・・それで。」
「え・・・?」
何か先輩に声をかけようと一生懸命になり少々変なことを私は言ってしまった。
先輩は呆けた顔をして私を見ていた。
先輩に見つめられて、私の顔はなんだか熱をおび始めた。
それと同時に後悔もした。
言わなければよかったと。
それでも出してしまった言葉は戻ってこないため、続けるしかない。
私は思考が停止しかけながら話した。
「いや、別にいいじゃないかなと思って。
だ、だってそれってただ単に体が小麦粉を欲しくないと言っているだけで、
それを食べなきゃ死ぬというわけではないじゃないですか。
確かに体に大事な栄養もあるかもしれませんが、他でもきっと代用できるはずなので、
問題ないはずです。」
私は説明するのが恥ずかしく感じていた。
この時間が速く終わって欲しいと思った。
結果、凄く早口で話した。
先輩は先程同様、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
暫く目を点にした後、先輩は瞳を輝かして笑った。
「君・・・やっぱり変わっているね!」
まるで金平糖が落ちる様に笑う先輩が愛らしく思えて、
私は先輩に夢中になった。
先輩はくすくすと笑いながらくるりと回転した。
「私、今すごく気分がいいの!!だから、とっておきを見せてあげる!!」
そう言って、制服の飾り紐を解いた。
すると、先輩は光に包まれ、みるみるうちに変わっていく。
最初に制服、靴、手には手袋を付けて、最後は髪色を変えた。
先輩はあの猫のような髪が鮮やかな若葉色に変化した。
私はその髪色を見た瞬間、脳裏にとある記憶が流れた。
私はこの魔法少女に会った事がある。
戦場の魔法少女 立花恒星 @Kousei00Tatibana
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