終末、何してますか?

とある猫好き

遠くで明るい声が聞こえる

 ジリ───ジリジリ───


 ジジ───



「どうもー!皆さん、終末何してますか?『徹矢の部屋』へようこそ。水瀬徹矢です。そして───」


「ゲストのレディー・ガ◯だわ」


「えーみなさん、ご安心ください。今このスタジオに、明らかにデカすぎる腐った玉ねぎの衣装を着た不審者はいません。てかゲストは自分でゲストとは呼ばない」


「あらそう?なら早く紹介してちょうだい。あなたのせいで初めて聞いた人が『なんて段取りの悪いラジオだ...』って勘違いしちゃうでしょ」


 男性の溜め息が聞こえる。


「はい...改めまして、ゲストの───」


「デーモン陛下だわ」


「ゲストの───」


「大山のび代だわ」



 しばらく沈黙が続いた。



「さて、気を取り直して。本日お越しいただいたのは、ゲストの水瀬すずです。今日も皆さんに笑顔をお届けするため、元気いっぱいでお送りしていきます!」


「どうも。姉の広頼すずだわ」


「それでは早速、今日のメインテーマに移りましょう!今日のテーマは『日常の小さな幸せ』ということで、なんと一人のリスナーさんからのメッセージをいただいています!では早速絵読み上げていきましょう───」


 「ラジオネーム『築地市場は閉場しています』さんからのメッセージです。『道端に1000円札が落ちていた時』とのことです」


 「確かに一瞬ドキッとするわよね」


 「そうですよね。今でも天使と悪魔が召喚されて、脳内会議が始まるんですよね。一瞬で解散しますけど」


 「今の世界じゃ紙屑同然。あんだけ揶揄されていたトイレットペーパーより需要の低い紙となった感想はどうかしら」


 「今じゃ使える店はおろか、届ける交番もないですもんねー」


 「そうよね。そういえば最近『おら、ジャンプしてみろよ』って脅す輩を見れなくなったのは少し寂しいわ」


 「自分は毎日見るのでそこまで気にしませんね」


 「あら」


 「てか脅される方の当事者なんですけどね」


 「なによ、今日はちょっとうまい棒を要求しただけじゃない」


 「要求とは鉄パイプで脅すことではない!」


 「つまらない人間ね。ほら、さっさと次のメッセージを読み上げてちょうだい」


 「クソ姉貴が...いやーメッセージはこれで全てなんですよね。最初はあんだけあったのに」


 「『失ったものばかり数えるな。立って歩け、前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』」

 

 「いくら怒られないからってそれはダメでしょ」


 「名言は残していくものよ。それに今どき誰も法律なんか守ってないじゃない」


 「そうだとしても...」


 「今私たちは無敵なのよ。七色に光って軽快なリズムだって出せるわ」


 「逆にこえーよ。てかもしそうだったら今頃こんなビルに閉じ込められてねーよ」


 「あら、いつだってこの窓から飛び出せるわよ」


 「...自殺願望はまだない」


 「あらそう。期待して損したわ」


 「弟に対してなんちゅう期待だ...」



 しばらく沈黙が続いた。



 「いつまで続くのかしらね」



 そしてまた、沈黙が流れる。



 「と、というわけで、今日も『徹矢の部屋』にお付き合いいただき、ありがとうございました!私たち姉弟はやおきん本社であなたの訪れを待っています!それではまた、必ず会いましょう!水瀬徹矢と───」


 「レディー・ガ◯だったわ。あと、◯のところは自分でピーを付けなさいね」





 ジジ───



 ジリ───ジリジリ───




      




 「よっと。ここか」


 「───失礼します」


 何年かぶりに、収録室の扉が開く。ギッギッギッと錆びれた音を立てながら、ゆっくりと。ゆっくりと。

 旅人を待ち構えていたのは、埃被ったラジオの発信設備。それと互いに肩をくっつけながら眠っている二人の白骨化した遺体だった。



 旅人は静かに歩み寄り、手を合わす。



 外では桜が咲いていた。例年より早い開花日。

 誰かの帰り道を変わらず見守る。


 ───例え戻ってこないと分かっていても。




 やがて顔を上げた旅人はマイクに近づき、スイッチを押した。



 すーっと息を吸い、マイクに向かって話を始める。


 明るく、楽しそうに。





 「どうもー!皆さん、終末何してますか?」

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終末、何してますか? とある猫好き @yuuri0103

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