後日談 大好きだよ!

 私は部活動用の荷物をバタバタとまとめている。そんな時、私の部屋の前からお母さんの声がした。


「晴香? もう学校の時間よ?」

「ごめん! まだ準備が終わってないの!」

「何してるのよ。そういうのは昨日のうちにやっておきなさい。あなた二年生になったんでしょ? もう先輩よね? しっかりしないと───」

「あー、あー、分かったよ! 忘れてたの。お説教聞いてたら遅刻しちゃうよ」

「全く……。外に栄美ちゃんが待ってるのよ? 早くしなさい」


 ママの足音が遠ざかる。

 そこでようやく荷物をまとめ終え、荷物が詰まった中くらいのカバンが出来上がった。私は慌てるように玄関まで直行して靴を履き、ドアを開けた。


 玄関前の道路のところに栄美ちゃんが立っていた。栄美ちゃんは朝日を存分に浴びながら穏やかに微笑んでいた。私の顔もついほころぶ。


「ごめん。おまたせ」

「いいんだよ。行こっか」


 栄美ちゃんは義足と杖の使い方にもだいぶ慣れてきて、しゃんとした歩き方にはむしろ私の方が歩くのが下手なんじゃないかと思わせられる。

 ひらひらと踊る桜にも出迎えられながら私たちは学校に向かった。


 栄美ちゃんは親からあまり相手にされていないものの、学校には親から学費を貰ってそのまま行かされているらしい。急に学校を辞めたりして不審がられないために、という方針だそうだ。

 私は話を聞いているだけでも切なくなったけど、栄美ちゃんはそんなに気にしてる様子もなかった。私が居てくれるから大丈夫って言ってくれた。



 私と栄美ちゃんはまたしても一緒のクラスになった。学校に着くと二年生のフロアにある私たちの席がある教室に入る。

 その時、私たちは声をかけられた。ひかりちゃんの声だった。


「おはよ、はるちゃん!」

「あっ、おはよう。ひかりちゃん」

「えみちゃんもおはよ!」

「おはよう。


 栄美ちゃんが『浜藤さん』の部分を強調するように言い放った。明らかにつっけんどんな態度を取っている。

 私は下の名前で呼び合う仲になったけど、栄美ちゃんはそうでもないのかな? と思っているとひかりちゃんが言う。


「うげぇ。冷たいなぁ。私は寂しいよ。家まで行ってメイク教えてあげた仲なのに」

「そんなことしてたの?」と私。

「ちっ違うからあれは! 浜藤さんが仲良くしようとしてくるから私の友達にふさわしいのかテストしただけ。コスメ買ったばかりでよく分からなくて、それで浜藤さんに頼ったとかじゃないから。勘違いしないでよ」

「はぁー……。ツンツンしてるなぁ。よく飼い慣らせたね、はるちゃん」

「飼い慣らすなんてそんなつもりないよ、あはは。でも栄美ちゃんがメイクに興味持つって意外だね」

「あぁ、それね」とひかりちゃんが言う。「春休みの時に頼まれてさ。はるちゃんとショッピングに行くからって。テストとか言ってるけど、あれはかなり気合いが───」

「あぁーーーーっ! 言わないでよ!」


 栄美ちゃんが言葉を遮るところを見て、私はつい「あははは」と笑ってしまった。

 あんな態度だけど私には分かる。栄美ちゃんはひかりちゃんにだいぶ心を開いている。……相変わらず甘えるのは下手っぴだけど。栄美ちゃんに私以外の友達と呼べる人が出来たことが嬉しかった。

 栄美ちゃんはいい子だから、私にしか心を開いてないなんて、似合わない。栄美ちゃんはたくさんの優しい人に囲まれるべきだと思う。

 ……それにしても、あのお買い物の時のメイクってそうだったんだ。確かに栄美ちゃん、随分とオシャレしてきてたなぁ。すごくかわいかった。私のために? ……もしかして私に対してちょっと友情以上の何かが……って、思い過ごしだよね。


 そんなことを考えていると、ふとひかりちゃんが私に言った。


「ところではるちゃん。今日から部活再開だよ。ちゃんと道具持ってきた?」

「うん。ここに」と私は一つのカバンをひかりちゃんに見せた。「それでさ栄美ちゃん。今日から部活があるから一緒に帰れそうにないんだ。……それとも終わるまで待ってる?」

「大丈夫だよ。一人で帰るから」

「そう? ……あの時みたいに変になったりしない?」

「大丈夫。私のことなんだと思ってるの?」


 と話しながら栄美ちゃんが私に微笑んだ。


「ずっと離れないって言ってくれたでしょ。つまりこれから先何十年も一緒だし、遠くに行っても絶対帰ってくるってことだよね。私たちは絶対離れ離れにならないから下校中だけ離れるくらい気にならないよ」


 私は栄美ちゃんの発言に思わず冷や汗をかいた。私への重さが恐ろしくなったという意味で。ひかりちゃんも同じことを思っているのか、ぎこちなく微笑んだまま表情が固くなっている。

 そんなことお構い無しに栄美ちゃんは言った。


「ずっと大好きだからね、晴香」

「……う、うん! 私も大好きだよ!」


 やっぱりこの激重感情、受け止めきれる気がしません!



 【 完 】








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殺し屋のツンデレ幼馴染がヤンデレ化して困ってます! この激重感情、受け止めきれません! あばら🦴 @boroborou

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