my best friend

@tenshinhaaan

第1話

全身がカーテン越しの朝日に照らされて山吹色に光る。

今日は暑くなりそう…。

もうそろそろ起きる時間かな。



 おはようりんちゃん。

りんちゃんはあの日のこと覚えてる?僕がりんちゃんと初めてあった日のこと。

まだ赤ちゃんだったから覚えてないか。

あの日は僕の人生で最高の1日だった。

りんちゃんがまだ生まれてすぐの時に、


「りんちゃんは1人だけでいると眠れないから。これからはこのおばあちゃんの作ったコン太と一緒に寝てね。」


とおばあちゃんが僕を作ってくれた。

おばあちゃんが僕の中に綿を詰めて尖った耳と黒い目、長いヒゲと口そしてふわふわのしっぽを作ってくれた。

そう!僕はキツネのぬいぐるみのコン太だ。

そしておばあちゃんは、僕に


「あの子をずっと見守ってあげてね。」


と言った。あれから17年も時間が経ったね。


 毎日一緒に寝て起きて、昔一緒にやったおままごと。

ママに一緒に怒られた時もあったよね。

旅行にも連れてってもらって、僕は君の膝から初めて窓の外の世界を眺めた。君が僕のために作ってくれた小さな服は今でも僕の宝物だよ。

りんちゃんが学校の友達とけんかした話を僕が一晩中聞いたこともあったよね。

君が僕の名前を呼んでくれたとき。

笑いかけてくれた時。抱きしめてくれたとき。

この時間が終わらずにずっと続けばいいにのにって思った。


 りんちゃんももう高校2年生。りんちゃんが大きくなるにつれて勉強や部活でだんだん忙しくなっていった。

りんちゃんは最近は朝練で朝早くに家を出て友達と遊んでから夜遅くに帰ってくる。

あんまり家で過ごさなくなって、僕と遊ぶ頻度も少しずつ減ってきて本当はちょっと寂しい...。

 でもりんちゃんが楽しんでるところを見るのが僕は1番嬉しいから!

学校から帰ってきて、疲れてぐっすり寝てる君を見るのも大好きだよ。

あんまり会えなくても、遠く離れた場所にいても僕はりんちゃんのそばにいるよ。

でも、たまに一日だけでもいいから昔みたいに遊びたいな。


 そんな考え事をしてるとドアの開く音がした。


「おじゃましまーす。」


そういえば、今日はりんちゃんの友達のみどりちゃんが家に遊びに来るんだ!

みどりちゃんは部活の友達みたい。


 僕は、本当は少しりんちゃんの友達が羨ましかった。だって僕はぬいぐるみだからりんちゃんと喋れない。

どんなに動きたいと思ってもこの短い足とふわふわの綿では動けないし、どんなに喋りたいと思っても刺繍の口は開かないし動かない。


君と喋ることができる日を夢見ないことは無いくらい...。


あぁ、みどりちゃんが羨ましいな。


もしりんちゃんとお喋りできたら楽しいだろうな......。








 しばらくして気がついたら僕は床のクッションの上に座っていた。あれ?ベッドの上にいたはずじゃ...。

窓から風が吹いて黒く長い髪の毛が顔にかかる。折りたたんで座っている異様に長い足、綿とは違う弾力のある長くて白い腕。あたりを見回してみる。ちょっと変な感じだけど動ける!?

僕は一体...。しかも、目の前には皿に乗ったクッキーを挟んでりんちゃんがいる。


ということは!

なんでか分からないけど僕、みどりちゃんになってる!?





「え、りんちゃん?」


「みどりどうしたの?いきなりちゃん付けだなんていつぶり?いつも凛って呼ぶじゃん。体調でも悪いの?」


とニコニコ笑うりんちゃん。

ということはやっぱり僕はみどりちゃんになったということ...?大混乱だ。


「ううん、なんでもない。」


 喋れてる。でも、こんな形で夢が叶うなんて思いもしなかった。


「そういえばみどり、彼氏とはどうなったの?一緒に行くんでしょー?遊園地。」


「あぁ、うん。まぁね。」


 よく分からず適当な返事をしてしまった。あんまり遊ばなくなってから会話の内容も変わったな...。でも!とにかく、この喋れるチャンスを逃す訳にはいかない。今しか言えない。


「凛。いやりんちゃん。ずっと言いたいことがあって、りんちゃんのこと大好きだよ。今までありがとう。そしてこれからもよろしくね。」


「えーやっぱり今日のみどり変。いつもと違うよ。ちょっとキモいかもー。でも私も大好きだよ、当たり前じゃーん。」


 17年間ずっとずっと言いたかったことが言えた。

その後も色んな話をした。

りんちゃんの学校での話、お父さんとケンカした話やりんちゃんの好きな人の話を聞いたり、小学校や幼稚園の頃の話をしたりした。

こんな夢が叶うなんて...。


 僕は本当に世界一幸せなぬいぐるみだと思う。全世界のぬいぐるみが羨むくらいには。

でもりんちゃんにとってはみどりちゃんと話した記憶しか残らないのか。

寂しいけど、りんちゃんにとってはそれでいいんだよね。これからもずっと近くでりんちゃんのことを、見守ってずっと一緒にいたいな。


りんちゃんのコン太で本当に良かった。


これからりんちゃんがもっと大きくなって大人になっても傍にいれたら楽しいだろうな。


りんちゃんは大きくなったら何になるんだろうな。


元気で楽しく毎日過ごして欲しいな。


そんな楽しい想像をしながら僕は眠りについた。








──「凛!夏休み終わる前に部屋何とかして掃除しなさーい。」


「はーい、ママ。今からやるからー。」


はぁ、ママはうるさいなー。

最近の高校生は忙しいのに。お風呂上がったあとだってやること沢山あるのに。

掃除か。

このぬいぐるみ汚くなったし古いからもういらないかな。

最近遊んでないし。そして、私は大量のプリントをまとめ終えるとコン太をゴミ袋に入れた。

そのまま教科書の整理をしようと思ったが、私はゴミ袋に向かって喋りかけていた。


「今までありがとう、コン太。」


そういえばみどりと知り合ったのは中学からだよね。

なんであのこ私の幼稚園とか小学校の話知ってたんだろう。


まぁいっか。

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