第14話



 ――――3級ダンジョン"アダチ"



 俺たちは今、首都の3級ダンジョンへ訪れている。


「カンジちゃん、お菓子食べる?」

「チョコはいかが?」


 首都にあるダンジョンは最低でも3級。

 最高で特級まであり、日本国内で最もダンジョンが密集している場所でもある。


 そのため、3級以上の探索者が非常に多い。



 あ、これうまいな。しっとりした舌触りとまったりした甘さが良い。



 なので、3級以上の探索者とパーティを組むにはうってつけということだ。

 俺は舞夜からの紹介で到着後すぐにパーティを組むことができた。

 今回は"魔女組"から2人も来てくれた。


「こっちもあるよ~」

「まだまだ――――」



 うま、うま。



「ハッ!……ちょ、ちょっと待って」


「ん?」

「どうしました?」


 2人はきょとんと疑問を浮かべたような顔でこちら見ている。

 そして俺は最後にもう一度口に詰め込まれたお菓子を咀嚼し、飲み込む。


「ダンジョンの中なんだから、もう少し緊張感をね」


 彼女たちは互いに顔を見合わせた後に頷く。


「ふむ」

「まあ、それもそうですね」


 手に持っていたお菓子がいつの間にか直剣と二丁拳銃に早変わり。まるで手品のようだ。

 感心したように見ていると、長い黒髪を手際よく結びながら、ある提案をしてきた。


「カンジちゃん。2層までは僕たちが敵の相手をするよ。

 実戦における互いの実力の把握は必要でしょ? アキハもそれでいい?」


 黒髪の女性、リラさんが直剣に闘気を灯す。


「構いませんよ。リラの提案に乗りましょう」


 もう一人の銀色がかったブロンドの髪の女性は涼し気な余裕のある笑みを浮かべながら銃に闘気を込める。

 2人とも臨戦態勢である。


 一方、俺は後ろからサポートする役回りとなっている。。

 今回は魔術を扱うことができる探索者が俺1人しかいないためだ。


(舞夜から最低限必要な魔術しか習ってないワケだが)


 闘気の鍛錬に明け暮れていたせいで、支援系の魔術はほとんど覚えていなかった。

 自己強化をする魔術だけは覚えているので撃ち漏らしがあっても対処は可能だ。


 ……闘気にスイッチしたほうがいいという事実からは目を背けることとする。























「カオスパペット3体は任せて」

「では私はルインパペットを担当しましょう」


 リラさんが地を蹴ってカオスパペットの集団に正面から突撃。


 敵から予備動作無しの黒弾が放たれる。


「見えてるよ」


 軽やかに身体をひねり、それを回避。

 更に撃ち込まれる弾丸の一部を直剣を利用して弾道を変えていく。




 これは舞夜から事前に聞いた話だが、彼女は"魔女流闘剣術"という"魔女組"の創設者が作り上げた近接戦闘用の剣術を扱うそうだ。

 特に彼女は等級こそ3級ではあるものの、剣術自体の実力は創設者の次にあるらしい。




 リラさんの持つ直剣が一瞬ブレる。

 すると次の瞬間、カオスパペットたちの胴に風穴が開いた。


「――――秘剣"空撃ち"……ってね」


 核を正確に撃ち抜かれたことで敵が霧散する。

 彼女は残されたドロップアイテムを拾い上げ、アキハさんへ一声かけた。


「僕のほうは終わったよ~」

「こちらもすぐに終わらせます」


 アキハさんの正面にはルインパペットが4体。

 事前情報によるとルインパペットの攻撃手段はカオスパペットと同じく魔力を用いた弾丸。

 異なるのはその弾丸の特性だ。

 弾丸が生身に触れると徐々に細胞が壊死していき、放っておくと臓器にまで到達する。

 治療法は触れた部分をすぐに切除するか、"ダンジョン撮影ビットくん"に実装されている魔術"壊死回復"を使うかのどちらか。

 "ダンジョン撮影ビットくん"の魔術は基本的にそれなりのお金がかかるが、後者を選ぶ方がトータルでは安上がりだろう。


「装填――――変質……"黄闘弾おうとうだん"、"白闘弾びゃくとうだん"」


 装填された弾丸それぞれに異なる質の闘気を込める。

 二丁の拳銃を目にも止まらぬ速度で構え、引き金に指をかけた。


「速攻の"黄闘弾おうとうだん"」


 ルインパペット2体の脳天に銃痕が出来上がる。


「破壊の"白闘弾びゃくとうだん"]


 白い弾丸が着弾した瞬間、残りの敵が爆散。

 霧散するところを見るまでもなく粉々となった。


「ひぃ~、相変わらずのえげつない攻撃だあ」


 リラさんは若干引いたようにアキハから離れるように一歩後ずさる。


「あら、とても優雅な戦い方でしょう。特に散っていく相手からくる風圧が気持ちいいですよ」

「ちょっと引く」

「ご理解いただけないようで残念」


 この2人、俺よりも強いんじゃないか?


 そう思うほどにしっかりと自分の技があり、それを使いこなしている。

 ただの我流で闘気の殴り合いをしているガサツなおっさんとは全然違う。


「……すごいなあ」


 素手で叩き落としたカオスパペットの流れ弾の残骸が霧散していくのを眺め、静かに呟いた。






















 ――――3級ダンジョン"アダチ" ボスゾーン


「カンジちゃん、見た目によらず強いね。

 撃ち漏らしたパペット軍団を素手でワンパンはちょっとビビっちゃった」


「それに状況に応じて闘気と魔力を即座にスイッチする戦い方。

 あまりにスムーズな流れにスイッチしたところすら分かりませんでした。舞夜様の言う通りの方ですね」


 ボスゾーンの扉前で準備してる折、2人褒められてご機嫌である。

 実年齢的に若い子から子ども扱いされるのはなんとも言えないが、褒められることに関しては素直に嬉しいのだ。


「そう言われるとおじさんながら照れてしまうなあ。あ、ちょっと気持ち悪かったかな」


 リラさんが俺を両脇の下から持ち上げる。


「いや~? 僕から見ればただの可愛い女の子、というか少し大人びた妹的な感じで全然オッケーだよ~」

「私もそれやりたいのですが」

「ほい」


 ひょいとそのままアキハさんへパスされるマイボディ。

 数回の高い高いの後、地に足をつけることを許された。かなり恥ずかしい。


「良い成分を補給できましたし、そろそろ倒しにいきましょうか」

「だね。じゃ、カンジちゃんも準備はできたかな?」

「……あー、うん。行こうか」




 俺は少しだけ羞恥による精神疲労を残したままボスゾーンへ突入した。



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ダンジョン配信おじさんがボスドロップで女の子になっちゃう話 深空 秋都 @Akito_Shinku

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