第3話 出稽古終了
丈は内心でガッツポーズをしていた。
やはりあいつは本物だ。他の奴らとはモノが違うとは分かっては居た。
唯一の心配は実戦に弱いタイプであることだった。
稀にいるのだ、サンドバッグやミット打ちは得意でも実戦形式となると途端に動きが悪くなるタイプは。
ボクシングとは言うまでもなく対人戦である。止まっている物を殴る事と、動きながら反撃してくる物では難易度が全く違うのだ。
「こりゃあ驚いた。若林が手も足も出ないとはな・・・」
松岡さんも驚いている。
そりゃあそうだろう、この聖拳ジムは業界でも大手。そこのホープがこう簡単に倒されたら驚きもする。
俺の見たところあの若林ってガキは今すぐプロになっても新人王を狙えるかもしれない実力だ。
生易しい相手じゃあない。
丈はヴァンが近い未来、世界を獲る器であると確信した。
一方、松岡はというと
(パンチの破壊力も凄まじいが、それよりもまず目が良いな。あいつは全てのパンチを完全に見切っていた)
もしかしたらパンチがスローモーションにでも見えているのだろうか?そんな風に思えてしまう。
(それに、あいつはパンチを全く恐れていない。格闘技が他のスポーツと最も異なる点、それは苦痛を伴うという点だ。殴り合いという競技の性質上どうしても避けられないのが、攻撃による肉体の損傷。格闘技とは互いの壊し合いなのだ)
人間である・・・いや生物である限り苦痛を避けようとする本能がある。
あいつにはそれを感じる事が出来なかった。
まさに異質なボクサーである。
(次の相手は誰かな)
ヴァンは倒れた若林の次の相手を待っていた。
彼はおそらく前座、次から本格的に強い相手が出てくるのだろう。そう考えていた。
(どうしたんだ?)
「次、誰でもいいから相手をしてやれ」
松岡さんがそういうと、明らかに若林より年上の、体つきの良い男がリングに上がってくる。
ボクシングを舐めるなよ。そう言った男は数秒後、あっけなくリングにひっくり返っていた。
右ストレート。またも一撃だ。
奥手である右は先程の左よりも遥かに当てにくいのだ。
だが、そんなことは関係ないとばかりにヴァンの右は一瞬で顎を打ち抜いていた。
計7人、ヴァンがマットに沈めた人数だ。
プロが混ざっていたにもかかわらずまともな勝負にすらならなかったのだ。
「受けるんだろう?プロ試験」
「・・・ええと」
受けるも何もプロ試験の受験資格は16歳からである。
年齢的に不可能なのだが。
ヴァンが答えに窮していると、横から現れた丈が答えた。
「もちろん受けさせますよ」
「そうか、頑張れよ伴君」
何がどうなっているのかは分からないが、プロで面白そうな相手がいるなら構わないか。そう思うヴァンであった。
異世界から転生した勇者はボクシングがお好き ちょこちょこっとチョコ @MIS2PT
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