第26話 答えが見つかったのなら


 理解できない


 理解できない


 理解できない


 理解できない

 

 理解できない


 理解できない


 理解できない


 何が起きた? 何が起きている


 何故同胞が、天使様達がお互いを貪り喰らっているのだ? 何故全員笑いながらお互いを殺しているのだ? 何故天使様はそれを止めてくださらないのか?


 僕の中の天使様がしきりに震えている、逃げろ、ここから逃げろと叫んでいる。ぼくだってそうしたいのです、でもなぜか一歩も動けないのです。


 先ほどまで全員普通だったのだ。これから新しい天使様を呼び出すための実験体である汚れなき少女を用いて、新たな同胞を作る予定だったのだ。


 今のいままで都合のいい道具として使ってきたモンスター狩りの女。名前なんて毎回忘れている、あんな下賤な存在を一瞬たりとも記録に残すなんて自らの記憶容量が勿体ない。それならばその全てを天使様に捧げ、同胞と未来を想像する方がとても素晴らしい。


 あれを使っていたのはいい金づるだったからだ。


 天使教でも末端である我々は守護してくださる天使様も少なく、守護してくださる天使様も下級天使。その天使様ですら宿して頂ける為には相応の捧げものが必要となる。あの女は僕が天使様を宿して頂くためにとても役に立つ女だった。


 ありもしない愛を囁いてやり、薄汚い身体を軽く抱いてやれば雌犬の様に尻尾を振る。これほど使いやすい駒もない。


 そしてあれから搾取し続けた事によって次、僕が貢献をした場合天使様を宿して頂ける事になり、こうして汚れなき少女を手に入れついに下級天使様を宿してもらえる事になった。


 こうなればもうあれは必要ない。最後は天使様を育成するために苗床に使う程度、このゴミからすれば最高の栄誉でもあろう。


 そう。ここからなのだ、ここからさらに天使様と共に世界に天使教を広め、何れは世界を天使の御業で覆い、永遠の救済を・・・




 それがなぜこうなっている??


 なぜこうなっている??


 ともに天使様の為に戦おうと誓った同胞が全身から異物を生やしながら自らの天使様を喰らい続けている。そしてその天使様も同じく同胞を食い合っている。


 誰もが同じだ、誰もが皆全身から何かが生え、痙攣したかのようにぶるぶると震え、それが終われば発狂したかのように仲間同士で殺し合い、貪り合う。


 まだ自分は記憶は確かだ、仲間を喰らおうとも天使を喰らおうとも考えていないし、考えられない。心を占めるのは例えようもない恐怖。


 下級天使とはいえ、天使様ですら抗えないそれを恐怖するなと言うのが無理な話だ。逃げたいのに体が自分の物ではないかのように動けない。背中から生えた天使様もがくがくと痙攣し続けもはや何を喋っているのかも分からない。


 どうしてだ、なにがこんな・・・


 ふと、その時に目が合った。


 そこには両手を組み、祈るように空を見つめているあの、利用していた女がいた。まさかこいつが何かを、と考えたがそんな事が出来る様な力をこいつは持っていない。モンスター狩りにしか使えないような魔術等という天使様の奇跡を馬鹿にするようなものしか使えない弱者であり愚か者。


 そんな存在がまかり間違っても天使様をこのような状態に出来る訳が。


 あの愚図は何か救いを見つけたかのように涙をこぼしながら天に向かって祈りを捧げている。


 脳が警鐘を鳴らしている。


 上を見るな


 上を見るな


 上を見るな


 見てしまえば終わる


 上を見るな


 上を見るな


 上をミロ


 上をみろ


 ウ エ ヲ ミ ロ


 あ――――――――














 すべてなくなってしまえばいい。


 私を騙したアレフも


 あんなのに騙されていた私も


 こんな事がまかり通るふざけた世界も


 あの力があれば、目の前にいる少女の力があれば、それは叶うはず。


 もう総てがどうでもよかった。


 ここまで必死に頑張ってきた、モンスター狩りという命を懸けた仕事も、自分を愛していると言ってくれたアレフの言葉があったからこそ頑張れた。


 いつも生活に困っている彼に、やれやれと思いながらお金を渡したりして、その度に優しく抱いてもらって、その度に生の実感を感じていた。


 いつかはこんな仕事も止めて、邪神軍も来ないような田舎で慎ましやかに暮らして終わりたいなんて考えて・・・


 その全てが虚構だった。


 何て滑稽


 何て愚か


 あぁ、世界はここまで酷いものなのか。


 ならばもういい、もう終わってしまえばいい。


 もう私に何も残っていない


 そう考えていた。


 あの子が・・・・・・・・・・・・・・・様を呼び出すまでは。


 世界が変わった。


 私の中で何かが弾けた


 なんでこんなくだらない事で死のうと考えていたのか。


 空を見てみれば、こんなにもすべてが広がっているのに


 手を伸ばせば無限が広がっているのに


 あぁ、そうなのですね


 私は、私で道を狭めていた


 ありがとうございます


 ありがとうございます


 大丈夫です、私が終わらせて見せます。


 どうか空の上から、私をお見守りください。


 そして貴方様のいとし子に、永遠の平穏のあらんことを


 目の前には愚かな私が好きだった何か


 あの御方を見て全てを理解したのでしょう


 でもどうでもいいことです


 でもどうでもいいことなんです


 貴方の事はどうでもいいんです


 もう総てどうでもいいんです


 空の上にはほら、全てがあるでしょう?


 誰もが望めばあぁなれるんです


 あぁ、私もなれる、そうなれる


 でも、アレフ


 貴方はだめみたいですよ?


 えぇ、えぇ、えぇ、えぇ、えぇ、えぇ、私は許していただけました。いとし子様の優しさのお陰で。でもこの罪は雪がなくては。


 アレフ


 ねぇアレフ?


 どうして私は貴方が好きだったのかしら?


 ねぇ? そこで発狂してないで、私を見て?


 ほら、腕を千切って


 足を千切って


 背中の天使とかいう寄生虫を千切って


 あぁ、もう頭だけしか残ってないわ


 でも、わかるでしょう? 空の上のあの御方を


 みてくださるでしょう?


 だから頭がとけて、脳がとけて、崩れていく


 おめでとう、あなたはもう、終われない


 おめでとう、ずっとえいえんにくるしんで?


 私は最後のお役目があるから。


 いとし子様を送らなくては、それがあの御方の望み。


 それを終わらせた時、私は始まるの


 私が始められるの


 空の上に


 裏の中で


 空の中で


 あぁ・・・・なんてすばらしい



──────────────────────────────────────

【裏の空のリオネィル】

それは理解してはいけない

それは存在してはいけない

だが、それすらも少女は飲み込み、理解し、把握し、手を伸ばした。

故に、それは少女の母になろうとした、結局は間に合わなかった。


終わった世界でそれは未だ望む

いとし子よ、あなたがいく健やかに日々を生きられるように


そのためならば

ほかのすべてはいらないでしょう?


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