第22話 それは夢、悲しいだけの夢



 夢


 夢を見る


 昔の夢を見る


 この世界ではなくて


 前の世界の夢を見る


 まったく無意味だった人生を夢見ている


 ただそれでも生きていたのは


 大好きなおばあちゃんとおじいちゃんが居たから


 あの二人が居たからこそ、ただ白いだけの世界を諦めずに生きていた


 たまに来てくれるおじいちゃんがおもちゃを買ってくれて


 たまに来てくれるおばあちゃんがおいしみを買ってくれた


 それだけが楽しみで、それ以外は全てが嫌いで怖かった。


 白い世界


 テレビの向こうでは今も暑いだのなんだのと騒いでいるのが見える


 広い街の中でリポーターたちが見える


 ドラマもたまにみた。学園ものの時は直ぐに消した


 学校なんていかなくても、計算は出来るんだ


 だから悔しくないし


 さみしくもない


 白い世界


 薬の臭いと時々聞こえてくるうめき声と嗚咽の声が聞こえるだけの世界。


 自分の世界はそれだけで


 それだけで完結して


 そのままで終わった


 そんな世界だからこそ、奇想天外な話に憧れた


 漫画、アニメ、小説、何でも良かった。どれでもよかった。


 そこには自分にはない夢と希望があった。


 それだけでは飽き足らず二次創作の世界にも足を踏み入れた


 残念ながら想像力だけは豊かでもそれを出力できる知識はなくて


 お爺ちゃんがかってくれたノートパソコンにかたかたと文字をうつ


 物語は頭の中にある。


 だけどそれを文章には出来ないから、せめて設定だけつくる


 その世界は、自分が作った世界で、何でもあって、そしてそれ以上に悲しい世界が広がっていた。


 優しさは虚無に覆われて


 勇気はいずれ腐れ堕ちて


 悪意はそれ以上の悪意に押しつぶされる


 所謂ダーク系のストーリー


 主人公は何の力もない少女、愚かで、正義もなければ、悪をもたず。


 ただ、愚直に誰かのために動いて、でも役に立たないような人間。


 だけどその愚直さが、その世界ではもう意味もないと思われていた優しさが


 誰かの心を打ち


 誰かの悲しみを救い


 誰かの苦しさを受け継いで


 誰かのために


 誰かのために


 最後の最後まで誰かのために生きて、それでハッピーエンドだ


 そう、ハッピーエンドにしたのだ


 そこから何も思いつかなかったから、それ以上に何も浮かばなかったから


 せめてハッピーエンドにしておこうと、物語を想像した。


 光り輝く鎧を身に着けた巨人の聖騎士

 

 自分より弱く幼く、何もできない少女に救われた聖女


 憎まれ、恨まれ、蔑まされてきた自身を肯定し受け入れられた邪悪の現身


 ただの人でありながら、たった一人の少女の為に神すら殺した戦士


 少女の心を知りたいと取り込み、愛を、無償の愛を手に入れた竜


 様々なキャラクターを想像し、頭の中では彼等と紡いだ物語がある


 文章には出来ず、


 だけど何かしら頑張ろうとして


 あっけなく全部おわってしまった


 人はいずれ必ず死ぬのだ


 優しいお爺ちゃんも


 優しいお婆ちゃんも


 いつの間にかいなかった両親も


 小さな頃に居た友達も


 ほとんど動かない手から零れ落ちて


 そこに無い筈の足から虚無感と痛みを感じて


 誰もいなくなった白い世界で


 悪意と隔意に耐えきるなんて出来ないから


 せめて最後は眠るように


 おやすみ














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