第7話 それが力と言うのならば、余りに脅威で


 いかつい男二人が護衛と言う事で正直怖い。


 魔術使いである私では接近戦では何もできないのだから。


 私は魔術使い、とはいえモンスターを倒せるほど強くもない、アイテム等を製造したりして糊口を凌ぐ底辺の存在。この見た目だって出来る限り強そうな魔術師を模しているだけ。普通の村人や町人なら魔術使いと言うだけで強い存在と思ってくれるから何とかなってる。


 この村である程度の魔道具を作っては売ってを繰り返してたけどそれでは流石に稼げなくなってきた。私が作れる魔道具は自慢ではないが便利であり、長く使える物だから、この村で売れる数は売り切ってしまったのだ。


 ここはあまり人と干渉しなくて済むしそこまで強いモンスターもいない、邪神軍もこんな片田舎には来ないから長く暮らせてたけどこのままでは飢えて死ぬ、


 だからこそ次の場所に行かないとならない。だから一念発起して次の町に行こうと乗合馬車に乗ったのだ。護衛が怖い男性二人の時点で私は荷物の一部になろうと決心した。


 私は護衛できるほどの力もないので、乗合馬車の代金だけ渡してある。護衛してもらうには彼等にお金を渡さないとならないが、怖くて無理。


 後、散財したのと自分の食料と物資をしまう魔術道具を作ったせいでほとんど手持ちがない。この辺りには山賊もモンスターも出るけどそんな簡単に襲われる事はないだろう。


 とまぁ、がくがくぶるぶるしてたら小さな子が乗ってきた。


 同じ女性とは思えない程の美貌。まだ10歳にもなってないだろうあどけない姿は私に致命的なダメージを与えるには十分だった。どうせ戦えもしない魔術師とは世界が違うのだろう・・・なんて思ってたけどどう見ても人生終わった様な姿をしていた。


 あの男二人が食料を渡しちゃったり、荷馬車の運転手が護衛代も渡しちゃうほどには可哀想で何も持ってない。


 私は人と話すのが苦手なので通目で見てたけど、あんな食べるものが無いからしょうがなく食べる様な産廃な保存食をおいしいって食べるとかスラムの子供よりも飢えてるんじゃなかろうか。


 スラムの方が捨てられてる食べ物を食べる余裕があるから、健康に見えてしまうほど。色白で余程の恐怖があったのか髪の毛が真っ白で、だけど多分どこかのお貴族か豪商の娘さんだったのかな。


 見てて癒されるから、ちょっとだけ旅が楽しくなりそうだった。


 近寄るのは無理だったけど。












 何て言っていた自分を殴りたい。


 そして家に帰りたい、自分の家じゃないけど。


 荷馬車から見えたのは20人以上の山賊達、そしてこちらは戦えない商人と子供と私と、護衛の男二人。


 生き延びられる目が見えない。


 あの男達がどれほどの戦士だとしても数の暴力の前には無力だ。


 例え英雄であろうとも、数の前には無力なのだから。


 私は戦える力もないし、ここから逃げる勇気も無い。ただ、何が起きてるのか理解できてないのだろう少女をせめて抱き寄せて息を潜めて怯えるしか。


 男たちが商人に逃げろと言っているけど、多分囲まれているから無理。


 私はこんな所で終わるのだろう・・・多分女だから、見た目はそれなりでも直ぐに殺される事はないだろう・・・でも、尊厳も何もかも破壊されるのが見てわかる。あぁ、何で邪神軍と言う不倶戴天が存在するのに、こんな人間同士で。


 ふと、震えていた私の腕から温度が離れた。


 そこにはあの少女がどこに持っていたのか分からない、ナイフを持って飛び出していった。


「まっ!?」


 止める間もなく、あの子は男二人の場所に飛び出した。


 何を考えて、そう思った時ふとあの子が言っていた言葉を思い出した。


 あの子は食べ物を貰った時に小さく、でも聞こえる声で、あの二人を自分が助けると言っていたのだ。


 馬鹿だ、大馬鹿だ、あんな子供が何が出来るというんだ。


 私はここで震えるしか出来ないのに、運が良ければ生き残れたかもしれないのに、あぁ、私に力があれば、勇気があれば・・・


 きっと嬲り殺されるか捕まって売られるか、嗜虐趣味の山賊に痛めつけられるのだろう。震えが止まらない、悔しさが止まらない。


 少女はナイフを振りかぶる、まさか戦うつもりなのか・・・


 だが、彼女は私も、男達も、山賊すら予想もしなかったことを行った。


 まるでそれは誓約をするかのように、小さなナイフ、それでも少女が持っていればダガー位に見えるそれを自身の胸に一瞬の躊躇いもなく突き刺した。


 何をと考える前に、彼女の周囲に恐怖すら感じる魔力が吹き荒れた。


 同時に感じるのは、途轍もない悲しみと怒り。


 少女はそのまま真後ろに倒れ込む。それと同時に彼女を起点としてみた事もない歪な召喚陣が走っていく。


 誰も動けない、今度は完全な恐怖で、あれは・・・あれは何?


 少女を護るように現れたのは見た事もない、巨大なモンスターだった。巨人にも見えるが、どちらかといえば人狼、邪神軍で人を喰らい尽くす窶れ人のナレハテに見えた。


 でも感じる気配はあれらとは違う、強大な光の魔力。だが、それは怒りと悲しみに溢れ倒れている少女を6本もある腕の2本を使い大事に抱えていく。


 誰もが動けない、動ける訳がない、あれはなんなの? 何が起きたの、分かるのはあれはきっと、あの少女が呼んだのだ。あの子が自分の命か血を触媒に呼び出したのだろう。そう言う召喚術があるとは聞いた事があるけど・・・


 それでも、あそこまでの存在は見た事がない。


 ぼこり、ぼこりと狼の様な顔が蠢いたと思えば、二つに割れ。伸びていた。一つの顔はゆっくりと少女の方に向かい見つめている。先ほどまでと違い、その目は理性を讃え、まるで壊れものを扱うかの様に抱きしめた手で刺さっていたナイフを抜き捨てる。


 溢れる血がまるで逆再生の様に消えていくのは、恐らく強大な回復魔術の効果だろう。あのような存在が癒しの魔術が使える事が脅威だが、考えられたのはそこまで。


 抱きしめられた少女の周りと私達の周りに強力な結界が張られる。こんな強力な結界は見た事ない、あれもあの何かが・・・っ!!


 もう一つの顔が山賊達を睨みつけている、少女に見せていた様な優しさなどはなく、触れただけで切り刻まれそうな程の憎悪と怒りを感じ、それと同時に余っていた4本の腕には大魔術師ですら発動できるか分からない程の魔力がたまっているのが見える。


「ぁ・・・あああああああああああああああ!?」


 漸く、漸く正気を取り戻した山賊が泣き叫びながら逃げようとする・・・が、突然爆ぜた。そして山賊が居た場所には血まみれの樹木が生えている。


 周りから響く断末魔。


 焼け死に、凍らされ、切り刻まれ、骨になり、溶けだし、自分から首を引きちぎり死んでいくものもいた。


 まるでそれは邪神軍に襲われたかのような地獄。


 地面で死んでいく蟻を見ているような目でそれを見ている巨大な人狼がそれを行っているのは確かだ。


「なん・・・なのよ・・・」


 私の声は風に流れて消えていった。


 


──────────────────────────────────────

【裏切られた聖女:アルフェリア】

世界を救う存在として崇められた聖女には大切な少女がいた。

誰からも愛され、誰もを愛し、自分を削ってでも誰かを救う少女を

だから、彼女は彼女の為に聖女になった。

聖女になるためにどれだけの苦痛と人外の外法を受けたとしても。


それが少女の為になると騙され続け

全てが終わった時には手遅れだった。

人を失った聖女は、愛する亡骸の前で咆哮する。


これが人間だと言うのならば、者皆総て殺しつくしてやる


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