煤元良蔵

 鶴橋亮には奈須理ケルツという親友がいた。家が隣ということもあり幼少の頃から二人で遊んでいた。鶴橋の頼みなら奈須理は何でも聞いてくれた。鶴橋と奈須理は固い絆で結ばれた親友同士だった。


♢♦♢♦♢♦♢

 

 目を覚ました鶴橋亮の視界に入ってきたのは真っ白い天井、シミ一つない無地の天井だった。

 寝た状態のまま、鶴橋は左右を確認した。左右どちらの壁も、天井と同じシミ一つない真っ白な壁だった。鶴橋はそのまま自分が寝転んでいる床も見たが、やはり、天井と左右の壁と同じ真っ白い床だった。

 鶴橋は上体を起こした。

 目の前の壁も他と同じように白かったが、鉄で出来た重厚な扉が一枚と40インチくらいの大きさのモニターが壁付けされているなど、違いがあった。背後の壁も室内面格子が取り付けられた曇りガラスの窓が一つあるだけで他と同じく真っ白い壁だった。

 部屋の大きさは大体六畳。そんな部屋の中心に鶴橋はいた。

 

「え、は、え……ここ、どこだよ」

 

 目を覚ましてから数分経ってようやく、鶴橋は自分が異常な環境下にいるということを理解した。


「そ、外に……」

 

 この状況から一刻も早く抜け出すため、鶴橋は目の前の重厚な扉を開けようとした。しかし、ガチャ、ガチャと音を立てるだけで、扉は開かなかった。

 

「くそっ、くそっ、なんで開かないんだよ」


 大声を上げ、扉に体をぶつけるが扉はびくともしない。扉が開かないと分かった鶴橋は次に窓から脱出しようと考えた。しかし、室内面格子が壁に頑丈に取り付けられているせいでそれも叶わない。


「何だよ、これ。何がどうなってんだよ」


 鶴橋は部屋の中心で蹲って叫んだ。

 昨日まで楽しい、いつもと変わらない日常を送っていたのに、どうして自分がこんなところに閉じ込められているのか分からない。

 昨日までの日常と現在の自分の状況とのギャップに猛烈に吐きそうになってしまう。その時、パニック状態の鶴橋を無視するかのような、緊張感のない声が部屋に響き渡った。


「あー、あー、テステス。あー、聞こえてるかな」


 声の発生源は扉横のモニターだった。

 モニターを見ると、先ほどまで何も映っていなかった画面に、不気味な笑みを浮かべた仮面をつけた男が映っていた。


「やっほー。聞こえてるね。こっち見たもんね。オッケーオッケー。初めまして、鶴橋亮君」


 画面の中の男が手を振りながら挨拶をしてくるが、鶴橋は何も答えられないでいた。恐怖で身が竦んでしまっているのだ。


(こいつが俺を誘拐した奴……なのか)


 鶴橋は生唾を飲み込み、モニターに映る男を凝視する。その視線に気づいたのか、鶴橋が反応を返さないからかは分からないが、男は首を傾げている。


「ん?聞こえてるよね?あっれー、反応薄いなぁ。強気でいられるのもまあまあ面倒くさいけど、泣き叫びもしない……これは新たなキャラ登場か……まあ、いいか。早速だけど君にはゲームに参加してもらうね」

「ゲーム……」

 

 鶴橋は、男の言葉を反芻する。


「そうそう。っていうかやっぱり聞こえてたじゃん……よし、ざっくり説明するね」


 画面の中の男はそう言って、ホワイトボードを持ってきて、黒いペンで文字を書いていく。


「この建物には現在、君を含めた30人の男女がいるんだ。二か月前から行われた第一ゲームを生き抜いた29人と君を合わせた30人。そして、明日から第二ゲームを実施するんだけど……ここで疑問に思うよね鶴橋君は。どうして自分だけが第二ゲームからなのかってね」

 

 男はペンを書く手を止め、鶴橋を真っすぐと見てくる。

 それ以上に気になることが五万とあるが、犯人を逆撫でしてはいけないと考えた鶴橋は無言のまま頷いた。


「第一ゲームはポイント奪取ゲームってのをやったんだよ。自分が保持しているポイントを相手から奪って、ゲーム終了時点で持っているポイントが多い人間から順位付けされるってやつだね。まあ、君には関係ないからゲームの詳細は伝えないよ」

「あ、ああ」

「それで、このゲームの一番の目玉だったのは、栄えある一位にはこのゲームから抜ける事が権利だったんだよ。まあ、無条件ではないけどね。自分の代わりに、自分の大切な人をこのゲームに参加させるってのが条件だったんだよ」


 男はそこで持っていたペンをどこかに投げ捨て、腹を抱えて笑い始めた。


「人間には大切な人がいっぱいいるじゃない。身内、恋人、親友などなど、大切な人はいっぱいいるんだよ。だけど、その全部が同列で大切かと言えばそうじゃない、その中で序列を作ってるんだよ。当たり前のことだよね」


 男は涙を拭うような仕草を見せた後、大きく手を広げた。


「で、二か月に及ぶ第一ゲームを一位で突破した彼は大切な人を犠牲に自分がゲームから抜け出すことを選んだんだよ」

「それで俺がここにいるってことか?」

「そういうこと!」


 男は鶴橋をビシッと指差してくる。


「ちょっと聞いていいか?」

「何だい?」

「勝者の名前は?」

「うーん。守秘義務ってのが…………ないから教えるね。奈須理ケルツ君だよ。君の親友のね」

「そう……か」


 親友の名前を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

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煤元良蔵 @arakimoto

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