エピローグ.なんだか夢の中で、一日中甘やかされていた気がする。
(教室のドアが開く音)
(数歩ぶんの足音)
「あれ、おはよう」
「珍しいじゃない、こんな早くから教室にいるなんて。まだだれも来てないわよ?」
「話したいことがあったから、早く来て待ってた?」
「人に聞かれたくない話……ちょっと待って、なにを言い出すつもりなの?」
「ちょっと!? 近いってば!」
「……え、えと、ええと」
「急にそんなことを言われたら、なんだか緊張しちゃうじゃない」
(やや大げさに深呼吸、息を整える呼吸音)
「う、うん。大丈夫。なんでも聞くから、話して」
「……うん?」
「………………ううん?」
「えっと、まとめるわね」
「休みだからって寝だめをしてたら、私の飼っている犬になる夢を見て」
「妙にリアルだったから、通話とかじゃなくて、直接会って話をしたかった?」
「………………あははっ。ふふ、なにそれ」
「そんなふうに考えることがあるのね。なんだか子供みたいで、少しかわいく思えてきちゃった」
「馬鹿になんてしてないわ。素直な感想よ」
「いっそ犬になりたいって、そんなことを言っていたからじゃあないの?」
「ボールで遊んだり、お風呂に入れてもらったり……?」
「たしかに昨日はそうしたけれど、よくあるお世話よ? 特別なことでもなんでもないの」
「それに、そんなにも甘やかされていただなんて」
「私はそんなことはしないわ。きちんと、節度を持って接しています!」
「だから、それは夢。ただの夢よ」
「でも……」
「その夢のおかげで、朝からこうしてふたりきりになれたのは」
「……ちょっと嬉しい、かな」
(がら、とドアの開く音)
(数人分の足音)
「って、言ってるそばから。ふたりきりはこれでおしまい」
「それじゃあ、私は自分の席に戻る、けど……」
(ううん、と、迷うような、息づかいの混じった声がして)
(耳元、すぐそばから)
(ささやき声で)
「……いつもいっしょにいてくれて、ありがとう」
「だいすき、だからね」
(声が離れる)
「もしも、いまの言葉に聞き覚えがあるのなら」
「……昨日のことは、夢じゃなかったのかもね。ふふっ」
目が覚めたらツンな彼女の飼い犬になっていたんだけれど、めちゃめちゃ甘やかしてくれてうれしい。 くろばね @holiday8823
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