6.贖罪の山羊は運命と踊る/加峰椿

https://kakuyomu.jp/works/16817330650042607252


【私がこの作品を手に取った理由】

 ジャンルは異世界ファンタジーとなります。タイトル、キャッチコピー、三行あらすじ、全てに共通する「運命」というキーワード。それを観測、干渉する国を舞台とする物語であることから、キャッチコピーに理想郷とありますが、タグの通り王道的なディストピアものの匂いが漂ってきて、興味を惹かれました。


【私がこの作品から読み取ったあらすじ】

 長編と思われるのですが、現時点で公開されている部分はCh.1のEP.1のみです。このため、以下のあらすじは現時点で公開中のCh.1のEP.1のものとなります。


・このエピソードにおける主な視点であるソフィアがアプトフォルスの首都パルツェに降り立つところから物語は始まる。

・運命国家と呼ばれるこの国では、人間は運命を可視化し、そしてそれを変える手段を得た。アプトフォルスでは、人々の運命が日常的に監視され、不慮の事故や犯罪は運命を交換することにより、起きる前に対処される。

・ソフィアは重い病を抱えていて、手術で失敗する運命を売るためにアプトフォルスにやって来た。

・カメリアという不思議な少女と出会い、心を惹かれたソフィアはカメリアに首都パルツェを案内してもらうことになる。

・運命犯という犯罪をする運命を持つ人物が存在し、そういった者はシステムにより観測次第、逮捕され裁かれるのであるが、対処が間に合わないケースがあり、ソフィアとカメリアは電車で運命犯に遭遇してしまう。

・少し異様な風貌の男性警察官(主人公)に助けられた後、ソフィアはかねてからの疑問を男性警察官に尋ねる。その答えを聞いて、ソフィアはある行動を起こす。

・事件が終わってから手術も無事に終わり、カメリアたちとの別れを惜しみながらソフィアはアプトフォルスを発った。


【私がこの作品に感じた良い点】

 心理描写、人物描写、状況描写、それぞれ一つ一つ丁寧に言葉を選んだと思われる繊細な描写がこの作品の大きな美点だと思っています。過去の出来事から乾ききってしまったソフィアの心をカメリアたちとの出会いが潤していく様が、直接的で野暮な表現を入れることなく表現できていると思いました。

 物語の設定もかなり興味深いものとなっています。理想郷を装ったディストピアを舞台とした物語は比較的よくあるものだと思うのですが、それに運命操作を絡めるというのはあまりないように思っています。それだけ、難しい題材のように思うのですが、先に述べた繊細な描写が解決してくれるのではないかという、今後への期待感があります。

 また、主人公はこのエピソードでは主な視点にはなっていないのですが、第三者の視点から描写することで、その異様さ、信念の持ちよう、その裏にある人情味を強く印象付けられていると感じました。ここから主人公の活躍が描かれるのだと思うのですが、良い導入になっていると思います。


【私がこの作品に感じた悪い点】

 かなり完成度が高いと思います。そのため、大きな点で指摘することが難しそうで、重箱の隅をつつくような書き方になりましたので、ご容赦ください。


・Up To You/君次第 ①――“それらすべてが複雑怪奇に入り交じり、形成されているここはもはやダンジョン。攻略するのに、右手の地図は必須アイテムである。”

 このダンジョンという言葉。ファンタジー的な地下迷宮の意味で使用されていると思いますが、ダンジョンは作品の世界で存在しているものでしょうか? 本来は地下牢の意味であり、文章で少し浮いていると感じた言葉となります。もし作品の世界で存在していないものであるなら、もう少し一般的なもので例えた方がよさそうです。


・Up To You/君次第 ④――“岐路に立っている気がした。このままパルツェを離れる箱の中に紛れれば、ソフィアは一体どんな運命を辿るのだろう。”

 この作品は三人称一元視点で書かれています。三人称一元視点と言っても色々で、この作品では視点の心の声が地の文で表される、かなり一人称視点に近いものとなっています。それの弊害なのか、「だろう」と締めた言葉は一体誰の推量なのだろうと感じてしまいました。おそらくソフィアだと思うので、「ソフィアは」は省略が正ではないかと感じています。


・Up To You/君次第 ④――“カメリアが笑う。その顔で、やっぱり全部バレていたことを悟った。”

 これだけは展開で少し違和感があったところです。カメリアは特別な存在であるので、その事柄がバレたとしておかしくはないと思います。しかし少々常軌を逸した事柄であるので、ソフィアはそれがバレていると確信するまでに至るのか疑問ではあります。そういった関係は美しいのですが、現実的にはカメリアが笑ったことにソフィアは戸惑ってしまうのではと感じました。伏線があってそれを見逃してしまっているのであれば、大変失礼な話ではあります。


 あと、これは悪い点ではありませんが、とても期待感がある作品のため、続きが気になりすぎます。


【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】

・ひとこと紹介

 運命の監視・交換。それは必ずしも幸福なことなのだろうか。

・レビュー本文

 心理描写、人物描写、状況描写、それぞれ一つ一つ丁寧に言葉を選んだと思われる繊細な描写がこの作品の大きな美点です。

 運命を観測、干渉する“理想郷”で彼らがどう足掻くのか。それが圧倒的な表現力で描かれています。


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 レビューは以上となります。全く個人の感想なのですが、このレビューを見られた作者さんは【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】を公式に投稿してよいものか、ご意見をいただければ幸いです。ちなみに私がレビューする時の星は必ず★★★です。

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