女子高生はダンジョンに向かない

おもち丸

第1話 小鳥遊小糸は死にかける

 小鳥遊小糸たかなしこいとはダンジョンの隣で働いている。

 何年か前までは住宅街のど真ん中にあるような普通のコンビニだったのだけれど、ダンジョンの発見と共に客が激増。

 今では地域で最も忙しいコンビニとなってしまった。


 「マジで客層変わりましたよね、ここ」

 天井を見つめながらそう語る彼女は、新人の森さんという。

 私の1個下で、カフェオレのような色のロングヘアが印象的な人だ。

 

 「だよね〜。もう地元の人とかほとんど来ないもん」


 「昨日なんて配信者のグループが店の前で暴れてたっぽくて。エグい数の警察来たらしいですよ」


 「モンスターじゃん」


 「ダンジョンだけに?あ、いらっしゃいませ〜」


 そうしていつも通りバイトを終えた私は、早歩きで家へと向かっていった。

 平日とはいえ、ダンジョン目的の人々で道は混雑している。

 世間ではダンジョン配信だとか、RTAなんかがブームらしいけど、近所に住んでいる私からしたら良い迷惑だ。

 

 「あんな場所の何が良いんだか......うわっ、なんか踏んじゃった!?」


 慌てて後ろを振り返ると、小さな黒猫が弱々しい姿で倒れていた。

 背中には私の足跡がはっきりと残っている。


 「野良猫......なのかな?どうしよう、死んじゃってたりしないよね?こういう時ってどうしたら......」


 不穏な想像が頭を駆け巡る中、必死に解決策を調べる。

 鳴り響く車のエンジン音さえ耳に入らないほど、私は焦燥感に駆られていた。

 スマホが、真っ二つになるまでは。


 「......え?」


 顔を上げると、猫はもういなかった。

 目の前に立っているは、見た目こそ猫に近いものの、全くの別物になっている。

 私の身長を遥かに超える体躯、血に染まった牙。

 その姿はまるで――モンスター、だった。

 

 「やばいやばいやばい!!!」

 私は咄嗟にその場を離れ、ほとんど何も考えずに走り出した。


 しかし私の足はそれほど速くない。

 50m走の記録は2ケタを下回ったことがないし、なんなら全力で走るのは先月学校でやった体力テスト以来だ。


 当然逃げ切れるはずもなく、気づけばあの巨大な猫は私に覆い被さっていた。


 「あ、終わった——」

 私はこんな所で死んでしまうのだろうか。

 まだやりたい事も、行きたい場所だってたくさんあったのに——

 そう思った瞬間、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「吹っ飛べ!!」

 

 その言葉と同時に、猫の姿をしたモンスターは大きな音を立てて爆散した。

 さっきまで私を殺そうとしていた怪物は灰と化し、見る影もない。

 立ちこめる煙の奥には人影が見える。


 「森さん!?」


 「助けに来ましたよ、先輩」

 

 この時はまだ知る由もなかったのだ。

 まさか今日の出来事が、私の人生を大きく変えてしまうことになるなんて。

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女子高生はダンジョンに向かない おもち丸 @snowda1fuku

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