第12話 キ、キスっ

 着替えて化粧を落とす。ようやくが戻ってきたようでホッとした。


「なーにむくれているんだよ」

「……別に」

「ひなこのお陰で優勝だぜ。クラスに貢献。お疲れさん」

「それは嬉しいんだけど」

「だけど?」

「まひろ、モテてる」

「え、マジで」

「んもう、嬉しそうに……知らないっ」


 はは~ん。嫉妬ですか、ひなこさん。

 いや、気分いいなぁー


「機嫌直せよ。後夜祭行くんだろ」

「行くっ」


 うちの高校の後夜祭は有志の歌や演奏で結構盛り上がる。ペンライト振って、皆で踊りまくって、最後は飛び入り参加の告白大会。


 ここで告白するってことは、学校中に知られるわけだから勇気もいるけど、OKされれば大勢のお墨付きをもらえるってわけだ。


 と言っても、少し前までの俺は『後夜祭?  だるっ。昨年行ったからもういいっしょ』なんて考える怠惰な学生だったけどな。


 大和はバンドで演奏側だし、ひなこがいなきゃ、絶対帰っていた。


 来たからには楽しまなきゃもったいねぇ、とは思っていたさ。

 でもさ、司会のヤツが知り合いだったのは想定外。


「今年のじょコンクィーン、森川真礼もりかわまひろ君でーす」


 舞台に呼ばれてしまった。


「いやー、まひろにあんな一面があったとは」

「教室ではいつも寝ている印象だったので驚きました」

「今日のために色々準備していたんですか?」


 立て続けに質問される。


 くそっ

 クールな高校生デビューを果たせたはずだったのに。今日のコンテストでちょっとサービスしたら、もうこれだ……


「あー、実は他に用意してることがあるんだけど」

「おお、いいですよ」

「んじゃ、マイク貸せ」


 司会のマイクを奪って前を向く。


 暗い観客席。たくさんの視線が俺に向いている。

 でも、俺が伝えたいのはただ一人。


「ひなこ、お前のことが好きだ。俺とつきあってください!」


 一瞬の静けさの後、場内が歓声に包まれた。

 押し出されるように、真っ赤な顔のひなこが舞台下へ。


「返事は?」

「……よ、よろしくお願いします」

「よっしゃ~」


 きゃ~っと悲鳴のような祝福の声。

 後夜祭は大盛り上がり。


 ようし、バックレるぞ。


 舞台からひなこの元へ飛び降りた。

 手を取り出口へ一直線だ。さざ波のように道を開けてくれるみんな。感謝だぜ。



 体育館の外はもう真っ暗だった。

 中の熱気を纏った体に心地よい夜の風。

 校庭を見下ろすベンチに並んで腰を下ろした。


 誰もいない。

 時々体育館から歓声が聞こえてくるだけ。


「これで俺達公認だな」

「うん。あ、ありがとう」


 おや、やけにしおらしいな、腹黒召喚師。


「じゃ、じゃんけん」


 え、ここでっ!?


 脳筋反射でパー。


 ん?


 反応に数秒かかる。


 か、勝ったぁ!?


 え、勝った。初めてひなこに勝った!

 人生初だぜ。


 えーっと、何してもらおうかな。

 考えたことも無かったから、直ぐになんか思いつかねぇよ。


「……キ」

「?」

「……キ、キスっ」

「へ!?」

「キスしてもいいよっ!」


 おお! キスかっ。

 それは良い案……って……


 いや、あれ!?


 いや、そりゃしたいけど。


 でも、それって!?


 なんでひなこが決めてんだよ。


 まったく……



 今日は人生初ばかりだな。


 

 ひなこの唇は、柔らかくて甘ったるくて。


 体の中をパチパチっと……


 火花が走り抜けた。



         fin.



【作者より】


 最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。

 



 


 

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