28. 3章 エピローグ
私は今回、国の為や大切な人の為にと立ち上がった人達が起こした炎を消し去った。
けれどそんな事を仕出かした私の心に芽生えたのは罪悪感などではなく……何処までも純粋な歓喜と優越感。
今回オリビアから出された課題である火消し。その一件目の炎上を起こした者は倫理的強者の立場で人を攻撃する事に優越感を覚える人で、二件目の炎上を起こした者は正論により人を攻撃する事に優越感を覚える人だった。
それぞれ違った理由から優越感を感じていたのだが、その違いとは正に『価値観』という物で、人はそれぞれ自分だけの価値観を胸に行動を起こしている。……そして私の持つ価値観とは『人を思い通りに操り、扇動する事』。
それを想像するだけで心が湧き、行動し思い通りに事が運ぶと、どうしようもないほどの達成感と満足感を得る事が出来るのだ。
「おめでとう玲子。これで今回の火消し課題は全て完遂だ」
「はい。……今回の課題は、色々と学ぶ事や再認識する事が多かったです」
「そうか、それは良かった。満足してもらえたのなら、玲子を引き取った甲斐もあるというものだよ」
中学生の子供にこんな課題を課したとは思えない程、満面の笑みでそういうオリビア。
そんなオリビアに向けて、私は質問を投げかけた。
「最後の火消し依頼、これで私が罪悪感を覚えてこの先オリビアから学ぶ事が嫌になるとは考えなかったんですか?」
「玲子はそんなたまじゃないだろう」
そんな可能性は微塵も考慮していなかったとばかりにオリビアは言い切る。
「だって玲子は……既に人を一人死に追いやっているのに、全く罪悪感を感じていないじゃないか」
私達の間にピンと張りつめた静寂が訪れた。
ニタニタと笑い続けるオリビアと、自然と視線が冷えていく私。
そんな静寂の中、オリビアはパソコンをカタカタと操作して一つの資料を表示させる。
「このアカウント、これは玲子の物だろう?」
その資料は、オリビアが人を扇動する過程を実演した後に渡された資料だった。
そしてその資料には、私の両親を中傷した者が自殺した経緯が事細かに書かれている。
オリビアが指さしているのは、その中の一文……『中傷した者のリアルを晒したアカウントの情報』だった。
そのアカウントは、煽り運転によって他界した両親を中傷する者が過去に投稿した内容を調べ上げ、その者のリアルを特定する情報を引用付きで晒していた。
その所為でその人はアカウント削除するだけでは逃げきれず、リアルでも様々な嫌がらせを受け、最終的にそんな日々に耐えきれずに自分で自分の命を絶ってしまったのだ。
「玲子はとても頭の良い子だ。自分で中傷者のリアルを調べ上げる事は造作も無かっただろう。……けれど、あの頃の玲子にはその情報の効果的な扱い方を知らなかった。復讐の為に自ら犯罪者となるような行動を頭の良い玲子が執るはずないからね、リスクなく復讐出来る機会を窺っていたんだろう?」
「……」
そう、中傷者のリアルを晒したアカウントはスマホでのみ使っていた私の捨てアカウントだった。
中傷を行っていた者はリアルが割れてしまうような不用意な投稿が多く、その人のリアルへと行き着くのは簡単だった……が、オリビアの言う通り、その情報を持っていたからといって私に出来る事は無かったのだ。
自分の人生を棒に振ってまで復讐する気は無く、だからと言って安全圏でその情報を有効に使う方法も思い付かなかった。
だがそんな私に転機が訪れた。オリビアが実演という形で炎上を起こし、リアルを晒せば一気に相手を追い詰める事が出来るタイミングがやってきたのだ。
私はオリビアにバレない様、スマホからこっそりその者のリアルを晒し、十分に情報が拡散された後はそのアカウントを削除した。
「玲子には高い知能と人を扇動する才能を持っていた。けれど、それでも知識と技術が無ければそれらが十全に発揮させる事はない。……これまでの課題から最低限の知識と技術を身に着けた君だ。その内に秘めた価値観を満たすのは、さぞ気持ち良かったんじゃないかい?」
「……そうですね。正直に言えば今とても満たされた気分です」
「はは、それは良かった。これで君も名実共に私と同じ悪魔だ。……さぁ、約束だ。君に隠されたもう一つの物語を聞かせておくれ」
オリビアはその軽薄そうなニタニタとした笑みを悪魔の様な笑みに変え、私に迫る。
「一人の少女を追い詰め、登校拒否へと追いやった君の物語を……」
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これにて第3章『優越感の悪魔』の完結です。
ちなみに、中傷者についての資料は1章エピローグの最後に登場した資料の事ですね。
今回出て来た新事実を知った上で読み返すと、資料を渡す際のオリビアのセリフの意味や、初めてその資料を見た際の玲子の沈黙の意味が当初とは違って見えるかもしれません( ¯꒳¯ )
次からは特別企画『教えて、オリビア先生』を数日掛けて公開し、その後『第4章 噂の悪魔』へと入っていきます。
本編公開まで少し間を開けさせて頂きますが、今後ともお付き合いの程よろしくお願い致します( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )
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