25. 羽化
今回の炎はこれまでの炎とは全く違う。
これまでの炎は自分が気持ち良くなる為に、偶々目の前に居た人を燃やしていたに過ぎなかった。
けれど、今回の炎は……大切な物を守る為の炎なのだ。
今回燃え上がっている非営利団体は、女性支援の名の元に巨額のお金を市から受け取っていた。
そしてそのお金の用途、つまり決算書にはおかしな所が多数あり、明らかに受け取ったお金がどこかへと消えているのが分かった。
支援される側であった者からの内部告発や、その他にも黒い噂は絶えず、その噂の内幾つかに関しては物的証拠まで見付け出されている始末だ。
デモ運動をしている者達は膨大な金額を市から吸い取り、そこから更に別の黒い組織へと分配されるスキームを非難し、適当に作られた計画書と決算書で許可を出しお金を出し続ける市を非難した。
このスキームは既に出来上がっており、同じような非営利団体は複数存在する。その為、一つを潰した所で全ての問題が解決する訳ではないのだが、問題点を指摘して一つの組織を潰す事で実績を作り、別の組織に対しても監視の目を光らせて今ほど自由に好き勝手出来なくなる可能性はあった。
デモ運動をしている者達は、自分達の町を守る為、国を守る為、友人や家族など大切な人達の未来を守る為に戦っているのだ。
そして今回私に課せられた課題は、そんな炎を消す事だった。
私はどうするべきかと悩みつつ、後ろで掛け声付きで踊っているオリビアを無視して更に情報を集め続ける。
その非営利団体について。デモ運動を行っている者達がこれまでどのような活動をして来たのかについて。その他にも、おかしい事に対しておかしいと声を上げる人達がこれまでどのように潰されて来たのかについても……。
――分かってる。
これまで潰されて来た声を調べていくと、至る所で悪魔の痕跡が見つかった。
――言われなくても、分かってる。
悪魔の扇動によって燃え上がる民衆の痕跡が見つかった。
――改めて見せ付けされなくても、私は前から自覚している。
単純な仕掛けを幾つも組合せ、最後に導火線へと火を着ける事で連鎖反応が起き、それは盛大に燃え上がる。……そこには一つの美学を感じた。
「玲子、君には見えているんだろう? 扇動する者の意志が、扇動される者の感情の変化が」
「……私の事は何でも分かるんですね」
「勿論だとも。私は玲子の一番の理解者だからね。玲子の事なら何でも知ってるとも」
「何でもって……それは私がまだお腹の中に居た時からですか?」
私がその質問をするとオリビアは眉をピクリと動かし、何時も浮かべているニタリとした笑顔が一瞬消え去った。
――はは、道理で。
私はそのオリビアの反応から全てを悟った。
「こんな課題を課せなくても元々私は自覚していましたよ。……私は悪魔……オリビアと同じ、情報の海に潜む悪魔だ」
――そんな事は元々自覚していた。『あの子』を陥れた時から……『あの人』を死に追いやった時から……。
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