24. 大切な物を守る為の炎
「さて、お待ちかねの次の依頼だ。今回の課題である火消しはこれで最後になるので、気合いを入れて頑張ってくれ」
「……それでチアガールですか」
「中々似合うだろ? 今日の為にダンスも履修済みさ」
「気が散るので絶対に踊らないで下さい」
オリビアの実年齢は知らないが、いい大人が家でチアのコスプレしている様を見せられる私の身にもなってほしい。
私はそんな状況にため息を吐き、さっさと話しを進める事にした。
「それで、今回はどんな炎上騒ぎを消すんですか?」
「課題に前向きで大変結構だね。……最後の課題はこれさ」
そう言ってオリビアはパソコンを操作し、とあるニュース記事を表示した。
「デモ運動?」
「そう、これはとある非営利団体に対するデモ運動でね、この団体の問題が明るみに出た所為で盛大に燃え上がっているんだよ。今回の依頼はその炎上を鎮静化させる事だね」
「……あの、この団体は実際に問題があるんですか? それとも誰かが扇動してこの団体を潰そうとしているだけなんでしょうか?」
「実際に問題のある団体だね。と言うより真っ黒さ。まぁ、似たような団体は既に幾つもあるから、一つ潰した所でどこまで効果があるか分からないが、自国の事を思えば潰した方が良いのは確かだね」
――それで昨日の問いか。
昨日のオリビアが突然問い掛けて来た質問『弁護士物の主人公の元へ悪人の弁護依頼ばかりが来たとき、その弁護士はどうなるか』。
私はそれに『弁護士という仕事に嫌気がさして辞める人と、悪人の弁護を全うする人が出る』と答え、オリビアはそれに対し『その者の価値観により、その者の行動と立ち位置が決まる』と言った。
……つまり、オリビアはこの課題で私の価値観を試しているのだ。
私はその人を試すような行動に苛立ちを覚えながら、だがまずは情報を収集・整理しようとその団体や炎上の経緯について調べる事にした。
……
…………
………………
「……本当に真っ黒じゃないですか」
この非営利団体を調べる過程で知った新法。
それは年齢、国籍、在留資格問わず、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律だった。
この新法は国籍や在留資格の有無を問わない所もおかしいが、更におかしいのがこの『困難』の定義すらされておらず、解釈次第で何処までも支援範囲を増やせてしまう所だ。
……そして現在この国には性自認を認める法案が既に施行されている。つまりは。
「今この国では『女性支援』を名目にやりたい放題している非営利団体が多数あるんですね……」
「そうだね。既に様々な利権や思惑が入り混じった状態で組織モデルが出来上がっていて、法による枠組みも出来上がっている為に完全に正常化する事はもはや困難だろう」
「……そしてそんな中、杜撰な運営によって表に出て来た悪事によって炎上が起き、現在デモ運動が起きていると」
正直言って今この国ではそんな事が起きているとは全く知らなかった。
こんな頭のおかしい法律が通って、そして既に施行している事も。
「だから以前言っただろう、この国もそろそろ危ないと。国の中枢は完全に食われているし、国家主導の元に国が内側から破壊され続けているのさ」
「度重なる新法設立と法改正、大量移民政策、そして現在世界で起きている戦争に関しての偏向報道に軍事強化、そして憲法改正ですか……」
あまりに状況が酷すぎて考える事を放棄してしまいそうになる。
……けれど、そんな状況の中でも戦っている人達は居た。
この非営利団体に対してのデモ運動だけでなく、国が行う狂気に対して声を上げて活動する様々な人達、中には政治団体として組織を作って活動する者達までいる。
だがしかし、それらはどれも上手く行っていなかった。どんなに裏付けされた証拠を提示して声を上げても、その彼ら彼女らを弾圧する者達が居る……民衆だ。
自身を含めた大切な人達の為にと活動する者達は、同じ国に住む民衆によって潰されようとしているのだ。
「8割の人間は自分で調べようとしない。考えようとしない。与えられた真偽不明の情報と持論を鵜呑みにし、自分達の為に活動する者達を攻撃する」
「……そして今回、私が民衆を扇動してその片棒を担げと?」
私がそう問うと、オリビアはニタリとした笑みを深くした。
「あぁ、そうさ。大切な物を守る為にと燃え上がった炎を、民衆を扇動し操って消し去ってしまおうじゃないか」
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