23. 価値観

「おめでとう、玲子。一つ目と比べると少し手間取りこそしたが、今回も無事依頼を完遂出来たようだね」


 オリビアから二つ目の依頼完遂を認められた日の夜、前回同様に達成祝いをする事となった。

 けれど今回は前回と趣向が全く違っていて、前回が秘密の高級レストランでのお祝いだったのに対して今回は……チキンパーティーだった。


「オリビア……流石にこれは無いです」


 テーブルに広げられたチキン、チキン、チキン。

 某有名フライドチキンチェーン店のチキンやら、ピザチェーン店のチキン。それにハンバーガーチェーン店のチキンナゲットに、様々なコンビニのチキンと、多種多様なチキンが並べられていた。


「いやぁ、何だか無性にチキンの食べ比べがしたくなってね。それにこれだけ色んな店のチキンが並んでいると、何だか贅沢な気分にならないかい?」

「……まぁ、分かりますけど」


 費用的に考えれば前回行った高級レストランの方が断然贅沢なのは明白だ。

 けれど、一個数百円のチキンを買うか買うまいかで悩んでしまう小市民である私からすると、色んなお店のチキンを買って一度に食べ比べするというのも結構贅沢な気分にはなっていた。


「それにほら、気分を出すためにシャンメリーまで買って来たし、こういうジャンキーな贅沢は子供の内に経験しておくものだよ」

「それを率先して実践してるのがいい歳した大人というのが何とも言えない所ですが……。と言うか、シャンメリーは普通の物じゃなくて子供向けの物なんですね」

「子供向けのキャラ物の方が断然美味しいからね。大人向けのシャンメリーは甘さ控えめで好きでは無いんだよ」


 そんなこんなで始まったチキンパーティーだが……思いのほか楽しかった。

 普段は買っても一つだけの物を大量買いし、食事バランスなどを一切考えないジャンキーな夕食。そして油でまったりしてしまった口を甘くてシュワシュワなシャンメリーで洗い流す感覚。

 これは確かに思い出に残る贅沢だと納得する。


「そう言えば玲子。今回は自作自演の偽情報まで作って、かなり思い切った事をしたね」

「……まぁ、そうですね。少しやり過ぎだったかとも思ってます」

「本当にそう思ってる?」

「……」


 オリビアにニタニタとした笑みから目を逸らし、私は無言でシャンメリーの入ったグラスに口を付ける。


「玲子は弁護士物のドラマや映画を見た事はあるかい?」

「何ですか急に? まぁ、ありますけど」

「ああいう作品では、基本的に主人公が扱う案件は被害者の救済だ。だけどもし、その主人公達の元に舞い込んでくる仕事が悪人の弁護ばかりだったらどうなると思う?」


 どういう意図の質問かは分からないけれど、理由も無く無視する訳にも行かないので真剣に考えてみる事にした。

 今まで見た物語の主人公達。彼ら彼女らは依頼者の無実を信じ、そして依頼者を救う為にあちこち歩きまわって証拠を集め、最後は真犯人捕まえたりしながら依頼者を救い続けている。

 けれどその依頼者が本当に悪人で、そんな悪人の依頼ばかり来たらその主人公達はどうするのか。それを想像し……意外と簡単にその答えは出た。


「多分、弁護士という仕事に嫌気がさして辞める人と、悪人の弁護を全うする人が出ると思います」

「流石玲子、私もそう思うよ。物語上彼らは正義の味方のような立ち位置に居るが、その立ち位置が崩れた時に彼ら本来の立ち位置が確定する。それは『正義の味方』か『依頼者の味方』かなどだね。それぞれの立ち位置には明確な違いがあり、その違いを決定づけるのは『価値観』さ」

「……今回の仕事での私の話をしたいんですか?」

「はは、そう不機嫌そうな顔をしないでくれよ。私はただ、世間話をしているだけさ」


 私は訳知り顔でニヤつくオリビアを無視し、テーブルに広がるチキンを食べ続けた。

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