17. 誹謗中傷を止める最も簡単な方法
「さて、今回の題材である倫理観についての説明はひとまずこれくらいで良いだろう。次は玲子が自分で考えて行動する番だ」
そう言ってオリビアは今回の課題について詳細を話し始めた。
1.火消しをするにあたって、オリビアの持つ全てのメディアアカウントを一時的に貸し出す
2.基本的にどんな手を使っても良い
3.相談はOK。ただし、基本戦略は自分で考え、相談はその戦略内容を固める為にする事
4.一度火消しで使った戦略は、次の火消しでは使用不可
「基本ルールはこんな所だが、何か玲子の方で質問はあるかな?」
「そうですね……。例えば、今回炎上のターゲットとなってしまった漫画家の方に動いてもらう事も可能なんでしょうか?」
「内容にもよるが、まぁ大体は可能だろう」
大体は可能と言い切ってしまう所が少し怖ろしいが、同時に頼もしくもある。
同じ手は2度と使えないという条件の為、次の課題となる炎上が更に難しくなる事を見越してこの手段は取っておこうかとも考えたが、難しい課題が簡単に片付いてしまう事を嫌がったオリビアが条件変更などと言い出す危険性もあるので、ここで切り札を切る事にした。
「今回は最も簡単な手段で行きたいと思います」
「はは、玲子が何を考えているか分かるよ。玲子は当事者としてその解決方法を知っているからね」
「はい、私が身をもって経験した方法。……攻撃者の持つ『反撃を受けない』という幻想を壊します」
……
…………
………………
オリビアが言う通り、匿名性のある環境で誹謗中傷を行っている人達の多くは『自分は一方的に殴れる』という幻想によってモラルが崩壊しているのだろう。
そこに強い信念などなく、『自分にも被害が及ぶかもしれない』という状況に陥ればたちまち誹謗中傷は鳴りやむ。私はそれを、自身の体験から知っていた。
両親の死を勝手な妄想で誹謗中傷する者達。彼らはオリビアが行った倫理観による扇動によって手痛い反撃を受ける事となり、多くの者が投稿を削除して沈黙し、そしてとくに誹謗中傷が酷かった者はリアルまで晒されてその命を落とした。
そしてその経緯を更に拡散する事によって、両親への誹謗中傷はピタリと止んだのだ。
今回私がやった事は、そんなオリビアの戦略の焼き増しだ。
漫画家さんに対して誹謗中傷の書き込みをした人達の中から特に酷い人達に対して情報公開請求を行って貰い、これから順次情報公開請求を行う旨をブログとSNSで投稿してもらう。
その後、オリビアの持つ時事ネタ系を扱う動画投稿アカウントとブログアカウントで事の経緯をまとめて投稿。そして複数のSNSアカウントを使ってその投稿を拡散。
私が立てた戦略はそんな所だったのだが、『どうせならもう少し事を大きくした方が面白くなるよ』と追加の戦略アドバイスを貰った。それは……。
「はは、見てみなよ。調達資金が遂に目標金額の一千万円に到達したようだ」
「先日、ニュースでも取り上げられてましたからね。SNS上でもこの漫画家さんを応援する声が日増しに増えているのが目に見えて実感出来ます」
オリビアのアドバイスとは、クラウドファンディングで支援募集をしようという物だった。
この支援募集で得たお金は複数人に対して行われる裁判費用として使われ、更にもう一つの大きな動きにも使われる事となる。
それは今回問題となった作品の特設サイトを立ち上げ、そこで問題となったシーンが出て来る6巻までをWEB上にて無料で読める様にすると言う物。
この動きは既存ファンだけでなく多くの人の関心を集める事となり、オリビアの情報配信アカウント以外からも一連の経緯をまとめた解説動画や解説記事が配信され、そして遂にはテレビニュースでも取り上げられる事となった。
書籍の権利を持つ出版社との兼ね合いもある動きではあったが、書籍の宣伝効果が十分に見込めると判断された事でこの活動へのGOサインは意外と簡単に出たそうだ。
「昨今の情勢によって情報公開請求の敷居は格段に下げられている。この動きには問題点もあるが、誹謗中傷を抑える為に最も効果的な手段である事も間違いない」
「そうですね。……こういう実例を見ていると、モラルを維持し続ける為にはそれを強制する環境もある程度必要なんだと実感しますね」
「ルールとは守る者が居てこそのルールだからね。ただし、今後この裁判という手段は安易な攻撃手段として扱われるようになってくる恐れも現在出てきている。そしてその攻撃対象は誹謗中傷を行う者だけでなく、正当な批判や自分にとって都合の悪い事を言う者に対しても行われる事となるだろう。……結局の所、『安易な武器』を与えれば攻撃的になるのは人であれば皆同じという事さ」
武器とは虐げられる者の味方ではなく『使う者の味方』だからね、とオリビアは最後に付け加えた。
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