【教えて、オリビア先生 】憲法改正 4
「ふぅ~、長かった本講座もやっと今日でようやく終わりだ」
「軽い気持ちで書き始めたら、憲法の変更内容が多くて予想以上に大変だったと作者が嘆いてましたね」
「そして今は必死に本編の執筆に追われているな。玲子、よく見ておくといい。あれが計画性の無い大人の末路だ」
◇
「さて本講座最後を飾るのは『緊急事態条項』と『憲法百条』についてだね。玲子はこの二つについて知っている事はあるかい?」
「そうですね。SNSや動画サイトではこの緊急事態条項について批判的な意見が多いって事ぐらいでしょうか。確か独裁国家になるという批判が多かった覚えがあります。……百条については全然知りません」
「確かにこの緊急事態条項については批判的な意見が多い。その名前の持つイメージが悪くなった為に、最近では緊急事態条項とは言わず『緊急政令』と言い出した程にね」
「名称を変えてイメージを払拭するのは政府のお家芸ですね」
売上税を消費税に変える事然り、副作用を副反応に変える事然り、緊急事態条項を緊急政令に変える事然りというやつだ。
「玲子が先ほど言った様にこの条項は国家の独裁化を招く危険性を孕んでいる。と言うのも、この『緊急事態』の発動条件が解釈による物なので酷く緩く、そして発動されてしまうと内閣は法と同じ力を持つことになる。更に言うと、緊急事態が発動している間は衆議院は解散する事も無いし、議員任期は伸びて選挙実施日も自由にズラすことが出来る。……こんなとんでもない条項が、以前は何の制限もなく一度発動してしまえば延々と緊急事態に出来る内容になっていたのだから呆れて物が言えないね」
「それは確かに凄まじいですね。……ん? 以前は?」
「そう、何の制限も無かったのは以前までの話さ。多くの国民から非難が飛び、それでマズいと思ったのか今ではそこに国会承認の条件が付与される事となった。まぁ、現在の与党議員が占める議員席数割合を考えると、どの程度これに効果があるのかは分からないがね。ちなみに緊急事態条項のある外国では、解除条件に国会の他に裁判所にも緊急事態解除の権限が付与されている」
そこまで説明すると、オリビアは憲法改正資料をスクロールさせて第百条を表示した。
「玲子はナチスという名を聞いた事があるかい?」
「勿論ありますよ。……酷い恐怖政治を行った独裁国家ですよね?」
「酷く曖昧な回答だが、まぁ多くの者の認識としてそんな物だろう。でだ、そんな恐怖政治を行ったナチスだが、元々は多くの国民の支持を集める政党だったんだ。そしてそんな政党は民主的に、そして合法的に法律を修正して行き……ある日突然その牙を剥いたのさ」
「……そうだったんですね。そういったイメージは無かったです」
「日本も例に漏れず多くの国々では民主主義が持てはやされているが、民主主義には致命的な弱点があり、そしてナチスはそんな民主主義が生んだ怪物だったという事実も知っておかなければいけない。現在民主主義を謳っている国の内いったいどれだけの国が、本当に意味で民主主義でいられているのか。……結局の所、独裁国家でも民主主義国家でも国民の幸せはトップ次第という所は変わらないのさ」
そしてオリビアは資料を指さした。
「そういう事実を加味した上でこの百条の草案を見てみてると良い」
百条、それは憲法改正の手続きに関する物だった。
現在の憲法ではその改正に総議員の2/3の賛成と、その後に国民による投票の過半数の賛成票が必要になる。けれどそれが
【衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決】
【国民の投票において有効投票の過半数の賛成】
となっていた。
「日本は世界的に見ても憲法改正のハードルがとても高い国なんだ。それと、元々憲法は権力者の暴走を防ぐための意味合いが強いという事も思い出して欲しい。それが今回の草案が通れば、憲法は国民を縛る物への代わり、権力者への制限は緩和され、国民への保証は薄れ、戦争参戦への条件は大幅に緩められ、内閣は緊急時に絶対的な権力を持ち、憲法改正の条件は緩和される」
これだけの変更を行うのにも関わらず、その変更内容も変更理由も国民に一切説明する事はなく、憲法改正について話す事は『自衛隊明記』だけだ。
この民主主義国家であるはずの日本の与党は、国民の事をどう考えているのか分からない。
その後オリビアは、【総議員の過半数】という文言を指さして、「現在の与党の議席が全体の何割を占めているのか、後で調べてみると良い」と呟いた。
◇
「はぁ~、やっと終わったな。まさかこんな長丁場になるとは思わなかったよ」
「そうですね。作者も書き始めるまえは2話ぐらいで終わるだろうと考えていたらしいです」
「見積がいつも甘いのさ。それにこれだけ長くなった講座でも、まだまだ紹介出来てない変更内容が多数ある。紹介していない変更内容にも凄い物があるので、玲子もサイトから草案資料をダウンロードして自分の目で確かめておくように。……それと個人的には、今回の草案から突然言い出した『有効投票』という文言がどうにも気になる。そういう事も含め、自分で調べて自分の頭で考え自分の答えを出すように」
「つまりは、いつも通りって事ですね」
「はは、そういう事さ」
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七瀬 莉々子「お、終わったーーー! 次からは通常通り本編3章に突入し、今回の講座みたいに延々と難しい知識の紹介ばかりじゃないので、読者の方々離れて行かないで~(泣」
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