【教えて、オリビア先生 】憲法改正 3

「さて、今日は憲法改正における大本命の1つ『憲法九条』についての解説だ」

「昨日の散々な変更内容を前にして『本当に危険な所はこんなものじゃない』と言い切ってしまう内容……正直、聞くのが少し怖いですね」

「安心してくれ、玲子の思っている数倍は怖い内容になっている」

「それの何処に安心要素があるんですか!?」


 その後オリビアは、私の心の叫びを無視して解説を開始した。


「玲子はよく話に出て来るこの憲法九条がどういう物で、改正によってどう変えようとしているのか知っているかい?」

「……正直よく知りません。イメージ的には自衛隊の名前を憲法内に書き込むという感じなんですが」

「まぁ、殆どの者がそうだろうね。今回の憲法改正において、メディアを通して総理が説明している内容は『自衛隊明記』だけだからね。具体的な説明は一切していないし、それ以外の改正内容と改正理由に関しては話題にすら上げていない。通常これはあり得ないことだ」

「この講座が始まってからオリビアも『憲法は日本の指針』だと散々言ってますしね。それに国民投票をするのに国民に詳しい内容を事前説明しないのも変な話です」


 このままでは多くの国民は詳しい内容も教えられていないままに、改正するかどうかの判断を委ねられる事になる。

 この状況を見て、『政府は誠実であり国の為を思っている』とは欠片も思えない。


「まずは九条がどういった憲法なのかについてだが、まずはその前に現在SNS等で呟かれている誤った認識について紹介しよう」


『九条改正で戦える国にならないと日本は守れない』

『九条が日本を守った実績は一度もない』


「これらの認識は誤りだ。それを説明する為には『武力攻撃事態対処法』『旧敵国条項』『田中角栄』について知る必要がある……が、これらの詳細を説明するととてつもなく長くなってしまうため簡略化して説明させてもらおう。各種詳細は自分で調べてみてほしい」

「了解です。……はっきり言ってしまうと、あんまり詳細にやり過ぎると読者が離れて行っちゃいますからね」

「まぁ、本音の8割はそうだね」


 ◇


「まず改憲派が大好きな言葉『戦える国』についてだが、実の所日本には2003年に前政権によって武力攻撃事態対処法という法律が設立され、正当防衛に限り先制攻撃すらも行う事が出来る法律が既に設立されている。ちなみにこれは完全なる憲法違反で、メディア等で国民に周知する事なく審議し、そして通ってしまった法案だ」

「じゃあ何で憲法を変える必要があるんでしょうか?」

「その事に関して前政権も現政権も説明責任を果たしていない為、それに断言は出来ない。が、思惑ではなく文面上の事実ベースで話をすると、この法律は『自衛の為』という縛りがあるんだ。けれどね、修正憲法九条を読めば分かると思うが、この憲法が通れば政府は縛りなく自由に軍を動かす事が出来るようになる」


 現行の日本国憲法を考えると完全に憲法違反となる武力攻撃事態対処法だが、一応は憲法を尊重しているという姿勢を見せるために『自衛の為』という条件下で先制攻撃を含めた戦闘を許可する法律となっている。

 だが、修正された憲法九条では『国際社会の平和と安全の為』という解釈次第でどうとでも出来る理由の為に軍を動かせるようになり、『自衛の為』という理由すら要らなくなるのだそうだ。

 勿論、現在世界で起きている2つの大きな戦争に関しても『国際社会の平和と安全の為』に参戦する事も出来る様になる。

 

 ◇


「次に旧敵国条項についてだが、旧敵国条項とは国連憲章によって定められた物で、これは日本で言う所の憲法のような物だと思ってもらえれば良い。そしてその内容を簡単に説明すると、『他国への先制攻撃は違法だけど、例外的に相手が敵国なら合法』という物で、日本はこの敵国に含まれている」

「えっ、そうなんですか!?」

「まぁ、これは第二次世界大戦時に連合国が作った物だからね。先ほど簡略的に言った説明も、より詳しく説明するともう少し細かいルールなどがある。が、それを説明するとかなり長くなるので詳しい内容や経緯は自分で調べるように」

「了解です。えっと、でもそれじゃ今日本が先制攻撃されても国際連合的には合法という事なんでしょうか?」

「いや、そんな事はない。何せ日本は憲法によって軍は持たず、国際紛争を解決する手段としての戦争行為を永久に放棄すると定めているからね。さっき話したより細かいルールにより、日本への先制攻撃は現状だと違法となる。……まぁ、それも現在世界で起きている大戦への火種に対して、戦争参戦国と定められるような行動を取っているので現状でもグレーな状態ではあるが」


 オリビアはこの旧敵国条項についての説明を続ける。


「ただし、この旧敵国条項はこれまでに一度も発動した事は無い。それにこの条項は既に削除される事が決まっていて、多数の国から時代遅れの条文だと判断されほぼ死文化しているからね」

「そうなんですね。少し安心しました」

「ああ、安心してくれ。まぁ、1995年にいずれ削除される事が決まったが、その後30年近く経った今でもまだ削除されていないし、死文化とは法的にではなく『実質的に』発揮しなくなった状態の事で、法的に効力を持たないという意味ではないのだけれどね」

「それは安心して良いんですか!? それとも安心出来ないんですか!?」


 この条項は実際に採決によって削除される事が決まっているし、多くの国から時代遅れの条項だと支持を受けて実際に死文化しているような状態になっているそうだ。

 それらを理由に旧敵国条項は配慮する必要が無いという者も居るらしいのだが、それはあくまで『可能性』であり『希望的観測』でしかなく、それは逆に条項が発動される『可能性』もあるという事でもある。つまり賭けなのだ……勿論ベットされるのは国民の命。

 更に言うと、常任理事国の中にはこの条項は死文化していないと言っている国も存在しているらしい。


「常任理事国の決は満場一致が原則だ。実際に敵国条項が発動され日本が攻撃された際、それが違法か合法か、そしてもし違法だったと判断されたとしても、どのようなペナルティを課せるかの決議が通るのは何時になる事やら。決まるとしても、それは世界情勢が確定された後かもしれないね」


 ◇


「次に田中角栄についてだが、彼は歴代総理の中で最も偉大な総理大臣だろうね。何せ彼は『自民党なんて潰れたって日本が潰れなければいい』と発言し、そして実際に国民の為にそれを実行した唯一の総理大臣だったからだ」


 過去にあったベトナム戦争時、実は日本は窮地に立たされていたそうだ。

 と言うのも、日本はとある大国からその戦争への出兵要請を出されており、これに従えば日本に大きな被害が出るが予想されていたからだ。……けれど実際にはそうはならなかった。

 それは、当時の総理大臣である田中角栄が憲法九条を盾に出兵を断ったからだ。そのお陰で日本は戦争を回避する事が出来、結果多くの国民の命が救われた。

 ……けれどその後、そんな英雄的な田中角栄は犯罪者として逮捕される事になる。


「自分の命と政治生命を賭して大国に抗い国民を救った英雄がいるというのに、歴史を知らぬ者は調べる事すらせず『九条が日本を守った実績は一度もない』と断言する……何とも残酷な話さ。さて、現在世界では大戦への門を叩く大きな火種が2つある。憲法九条が書き換わり、『国際社会の平和と安全の為』に軍を動かせるようになった日本では第二の田中角栄が生まれるのか興味が尽きないね」


 

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 お、終わらなかった。

 次回でこの講座も必ず完結させるので何卒ご容赦を><


 長くなるので具体的な修正案九条を紹介する事は出来ませんでしたが、是非草案資料をダウンロードしてその目で確認して頂けたら幸いです。

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