【教えて、オリビア先生 】憲法改正 1

「また今日もこの講座が始まってしまったようだね」

「そうですね。今回のお題は『憲法改正』についてだそうです」

「そりゃまた面倒なテーマだ。このテーマの面倒な所はね、詳しい改正内容を知らずに判断し、各種媒体で大暴れしている者達が居る事なんだよ。国に愛着が無いのであれば関わらないのが吉さ」


 そう溜め息を吐きつつ、オリビアは今回も渋々といった様子で講義を始める。


「現在、政権与党は憲法改正実現本部とやらを立ち上げていて、そこのホームページから日本国憲法改正草案の資料がダウンロード出来る様になっている。分かっていると思うが、玲子も私からの情報を鵜呑みにするのではなく、自分の目で確認して自分の頭で考えるように。そして間違っても今ある知識やイメージに固執して、調べる事や考える事自体を拒否しないように」

「了解です。……と言うか何時も通りですね」

「そう、何時も通りさ」


 そう言うとオリビアは日本国憲法改正草案のPDFファイルを開き、説明を始めた。


「メディアや国会議員は憲法九条の事ばかりを前面に押し出しているが、実の所これ以外にも変更点はかなり多い。だが多くの者がそれら変更点を知らないのにも関わらず、『憲法改正は日本の為に必要だ』と本気で信じている」

「そうですね、SNSとかでも大体話題になっているのは憲法九条や緊急事態条項についての物が多くて、それ以外の変更点については全然知りません」

「やはりその2つの影響は大きく、且つ分かりやすいからね。本講座でも変更点が膨大過ぎるため全てを解説する事はしないが、解説しなかった部分に関しても自身でその変更点を確認して『何の為にその変更を行うのか』という視点で見てみると良い」


 オリビアは日本国憲法改正草案の資料を一気に下の方へとスクロールし、憲法99条を表示した。


「まず大前提として、日本国憲法は国民を縛る物ではなく『国家権力の暴走を防ぐ為』の物である意味合いが強い。その為に国民を尊重する条項が多く、逆に国家における権力者に対する制限が多い。……そして今回の憲法改正によってその大前提が破壊される」


 そうして指さされた部分に書かれていた現行法はこうだった。


【第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ】


 そしてそこに新たに追加された内容がこうだ。


【第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない 2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う】


 同2項によって九十九条の同内容も入ってはいるが、憲法によって縛る対象に国民が大々的に追加されていた。

 あと地味に国家権力者の憲法に対する『尊重し』の文言も消えており、何故憲法改正までして尊重の文言を消したのかが謎だ。


「この条項によって日本国憲法は全国民を縛る物へとシフトされる。そしてその他の変更内容を見てみると分かるが、権力者に対する縛りは緩められ、国民に対する保証は大幅に削られている。本当に何故多くの日本人はこれまでこの与党に好き放題やられてきた歴史があるのにも関わらず、憲法改正だけは日本の為にやっていると思えるのだろうね」

「人は信じたい物を信じるって事ですかね。……えっとそれで、憲法改正についてはここからが本番って事ですね」

「そうだね。……けれどここまで話すのにちょっと疲れてしまったから、今日はもうここまでにして残りは明日にしよう」

「ですね。どうも作者が草案資料を全部読み返しながらかみ砕いて原稿を書くのに時間が掛かっているようなので、時間と余裕を与えときましょう」


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 七瀬 莉々子「変更箇所が多すぎる……ばたっ」

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