12. 二極化する世界

 政府はこっそりと工作を行い間違った常識を作り上げ、マスコミはレッテルを貼る事により民衆に間違ったイメージを定着させ、インフルエンサーは信者を増やしながらその発言力を伸ばしつつ間違った情報を拡散していく。……全ては繋がっていたのだ。

 

 世界は今、着々と、そして着実に二極化の道へと突き進んでいた。

 多様性という名の鎖、移民政策による治安の悪化と文化の破壊、司法の大変革、戦争拡大への煽り、それらを急速に進める国々。

 その一方それらを拒み、一つの枠組みに集まる事で勢力を拡大・盤石とする国々。

 

 日本は前者であり、様々な角度からそれらを隠し、そして促進していた。

 全ては悪魔達の掌の上だったのだ……思想も、自由も、その命さえも。


「勢力の二極化は世界経済の中でも着実に影響を及ぼしているね。世界で流通している通貨量にも如実に変化が生まれているし、通貨の流通量はそのまま通貨の信用とその国の経済安定へと繋がる。基軸通貨変動など起きれば、現在のままでは日本経済などひとたまりも無いだろう」

「オリビアはそれが起きると予想しているんですか?」

「このまま世界の二極化が進み、尚且つ二極間での日本のスタンスを変えない限りその可能性は非常に高いと思っているよ」

 

 そしてオリビアは話し続ける。

 

「経済云々を抜きにしても、この国もそろそろ危ないだろうね。デマ情報の取り締まりとやらが本格的に乗り出すようだし、憲法に関する間違ったイメージも長い年月をかけて着実に浸透させていって、改憲まで秒読み段階だ。報道しない自由とレッテル貼りによって国内外で今何が起きているかも多くの国民は知らない、それ処か誤った情報を植え付けられてすらいるのが現状だ」


 オリビアはそう話しながら、『さて、世界大戦への第三の火種は何処で起きるのだろうね』と芝居がかった様子で溜め息を吐きつつ首を振る。

 そんな様子を見ながら、私はオリビアにある疑問を投げかけた。


「オリビアは何でまだこの国に居るんですか? オリビアなら私なんかじゃ知らない情報も沢山持っているだろうし、もっと自由に立ち回れますよね?」


 それはこの課題を熟す過程で湧いて来た疑問だった。

 私はまだオリビアがどんな人物なのか、私と出会う前は何処にいて何をしていたのかを知らない。

 けれど、少なくともオリビアは私なんかでは触れる事の出来ない情報に触れ、そして国に縛られる事なく自由に自分の居場所を作れるだろう事は確信している。

 そのオリビアが、自ら戦争参戦への道を突き進んでいるこの国に何時までも居る理由が分からなかった。


「そりゃあ、玲子がこの国に居るからだよ。姉さんの忘れ形見であり、私の姪であり、今では私の可愛い養女だ。私がこの国に居ついている理由には十分だろう?」

「……それで、本当の理由は何なんですか?」


 普段の私ならすぐに引いただろう。けれど今回私は引き下がらなかった。

 不思議で不気味で実体が掴めない幻影のような存在。オリビアに向けている疑念は様々な感情を孕んでいたが、今一番私を支配している感情は『興味』だった。


「今まで私に対して一線を引いていた玲子が、ここまで私に興味を抱いてくれるなんて嬉しいじゃないか。……そうだね、それじゃあそんな玲子への感謝と親愛を込めて、一つだけ絶対に嘘は吐かないと誓おう。何を言おうと私の言葉を100%信じる事は出来ないだろう? だからこれは、私から玲子へのスペシャルプレゼントだ」


 何時も突拍子もない言動で翻弄し、オリビアという人物の実体を掴ませない彼女が答えるたった一つだけの真実。

 それに私は、とてつもなく大きな価値を感じた。


 色んな疑問がある。色んな疑念がある。多くある選択肢の中で選べるのは一つだけ。

 私は様々な選択肢を精査しながらその答えの持つ価値を見極めていき、そして最終的に選び取った問いを口にする。


「オリビアは本当に私の叔母ですか?」


 私が選び取った問いに大変満足したのか、オリビアは常に眠たそうにしていた目を怪しく輝かせ、その口元は悪魔のような笑みを作った。……そしてその口を開く。


「違うわ」

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