2章:悪魔の集う場所

6. 悪魔のやり口

「やぁ、玲子。今日も姉さんに似て飛び切りの美人さんだね」

「おはようございます。……オリビア、普段どんな服装をしても構いませんが、服だけはちゃんと着て下さい」


 毎朝行われるオリビアの挨拶を華麗にスルーし、今のその姿にツッコミを入れる。

 毎日様々な衣装に身を包んでいるオリビアだが、今日は服どころか下着すら着ていない状態となっていた。

 

「いやぁ、普段色んな服に身を包んでいるとね、偶に全てを脱ぎ捨てて過ごしたくなる日が来るのさ。一糸まとわぬ姿で過ごすことの何と気持ち良い事か。よかったら玲子もどうだい? この解放感は一度覚えてしまうと病みつきになるよ」

「結構です。私が裸族に目覚めたら、きっと天国のお母さんがオリビアを叱りに来ますよ」

「そりゃ駄目だ。姉さんは怒ると怖いし、一度怒ると治まるまでが長いんだよね」


 その後、オリビアに服を着せる為に色々と説得を試みたが、意外と自分ルールは曲げない頑固な性格であるオリビアは、結局その日は裸族で過ごす事となった。


 ◇


「さて、今日も楽しい楽しいお勉強の時間だ」

「楽しいかどうかは兎も角、学んでおく意義は見いだせていますよ」

「それは僥倖。やはり意味を見いだせていなければ、本当の意味で学ぶ事は出来ないからね」


 前回の授業で見せられた光景は、衝撃となって今も私の中で渦巻いている。

 その衝撃により私に生まれた感情は……恐怖だった。

 ターゲットとして悪意を向けられたらと考えた際の恐怖。知らず知らずに情報を操る悪魔から先導され、自分で物を考えられないゾンビへと変えられているかもしれないという恐怖。それらはオリビアから情報を操る技術を学ぶ意義として、深く私に胸に刻まれた。


「今回の授業のテーマは『悪魔の観察』だ」

「悪魔の観察と言うと……情報を操って人を扇動している人を観察するって事ですか?」

「その通り。前回は先導される者達を観察し、その生態を知った。だから今回は先導する側がどういった事をしているのか、そのやり口を知る事が目的さ」


 先導する者達の観察。

 きっと私は、これから碌でもないものを見せられる事になるのだろう。そう確信しながら、今日も私はオリビアの授業を受け入れる。


「さて、今回の授業で観察していく悪魔達なのだが、細かく分類するとそのやり口は多岐に渡るため全てを網羅して観察する事は難しい。なので今回は、分かりやすく調べやすい『国』『マスコミ』『インフルエンサー』を題材にしていこうと思う」

「悪魔達の観察と言って、最初に出て来るのが国って時点で溜め息が出ますね」

「はは、今のご時世国民第一で考えている国なんてそちらの方が希少種さ。今回は玲子にも色々自分で調べて貰う予定だけど、きっと調べていくうちにその意味が嫌でも分かる事になる」

 

 そう言うとオリビアは、カタカタとパソコンを操作し1つのブログ記事を呼び出す。

 それはインボイス反対署名運動に関する記事だった。


「玲子、君はインボイス制度について知っているかい?」

「……いえ、ニュースでチラっと聞いた事があるぐらいで、正直消費税関連の何かぐらいの認識しかないです」

「まぁ、君ぐらいの歳ならそんな物だろう。消費税関連という事を知っているだけでも大したものさ。ちなみに玲子は消費税については知っているかな?」

「そりゃあ、それくらいは知ってますよ。物を買った時に払わないといけない税金ですよね? 8%とか10%とか」


 そんな私の答えを聞くと、オリビアは上手く行ったと言わんばかりの得意げな笑みを浮かべた。


「そう、それこそが国のやり口さ。『国』『マスコミ』『インフルエンサー』、それらはそれぞれ違ったアプローチ方法によって民衆を扇動する。そして国がよくやる常套手段は……常識を作り出す事だ」

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