3. 悪魔が狙う者

「さて、これからの教育方針について情報を共有した所で、まずは今回の教材となるテーマを決めようか」

「教材となるテーマですか?」

「そう、教材となるテーマ。私はね、机に齧りついて淡々と座学を繰り返すのが苦手なのさ。だから実地で色々と教えていく」


 そう言うとオリビアは腕を組み、人差し指で腕をとんとんと叩きながら唸り出した。


「う~ん……そうだ、今回のテーマは『仕返し』にしよう♪」


 オリビアは良い事を思い付いたとばかりに上機嫌になり、パソコンをカタカタと操作して複数のSNSアカウントを表示する。

 

「玲子、このアカウント達に見覚えはあるかい?」

「……勿論あります。両親を中傷した人達です」

 

 勝手な理論で両親を中傷した者達。私に人間の醜さを教えてくれた者達。……不幸に陥れようと、何ら気を咎める事のない者達。


「そう、我が最愛の姉とその夫を中傷した者達。彼らには情報に群がる蟻達がどう動くのか、その生態の一端を見る為の教材となってもらおう」

「具体的に何をするつもりなんですか?」

「そうだね。まずはそこから説明しておかないといけないね。玲子、情報で民衆を扇動するに当たって意識しなければならないのは『誰を扇動するか』、そして『どうやって扇動するか』だ」


 オリビアの説明は続く。

 情報という観点から観てのカテゴリ分け『賢者』『愚者』『扇動される者』。ここで扇動しようと考えてはいけないのが賢者と愚者なのだそうだ。

 賢者は情報の本質を知っている為、どんな情報でも絶対視出来る物ではない事を知っている。その為、偽情報や偏向情報で操る事が困難なのだ。

 そして愚者。愚者は情報の有無に関わらず、自分の中にある妄想を世界の真実だと信じて疑わない者の為、やはりこちらも賢者同様に操ろうと考えるだけ時間の無駄なのだと言う。


 なので、巧妙に用意された角砂糖のような情報でその動きを制御し操るのは残り6割の人間、つまり『扇動される者』となる。


「今回は細かい解説は抜きにして、私が撒いた情報とそれによって起きる事を観察してみて欲しい。この一連の経緯を特等席で見ていれば、勘の良い君なら情報と人の性質が感覚的に理解出来るはずだ」


 そう言うとオリビアは複数のSNSアカウントとブログサイトを用いて情報を撒いて行った。


「情報発信用の媒体はいくつかの国ごとに複数持っているが、それら全ての媒体は情報源としての信用度を上げる為の仕掛けを施して育てている。ただ、それでも見る者が見れば扇動用の媒体だとバレてしまうだろう。今回は全体の流れを説明することを目的としているので省略するが、いずれ信用度を測る方法を教えよう」


 その後、約2週間掛けて巧みに情報を撒き続け、オリビアはターゲットを陥れる為の毒を情報の海へと浸透させて行った。


 ……


 …………


 ………………


 ――気持ち悪い。


 約2週間掛けて行った工作が今実を結んだ。

 その実とは……狂気に侵された者達が徹底的にターゲットを叩き、過去の発言を引っ張り出して再炎上させ、プライベート情報を暴いて晒し、色んな意味でターゲットを追放した。


 全体を一番見える席で観察し続けた私に残った感想は、両親を中傷した者達の末路に対する爽快感ではなく、扇動された者達が起こした狂気に対する気味悪さだった。

 別にやられた者達に同情している訳ではない。可愛そうだとも思っていないし、そもそも私は復讐が空しい行為だと思っているような聖人君子でもない。

 ……ただ、情報に扇動された者達の狂気に、表現しようもない気味悪さを感じたのだ。


「さぁ、玲子。君の目から見た情報と人の性質について教えて貰えるかな?」


 そう言うオリビアの目には、隠しようもない人への侮蔑の色が見て取れた。

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