ショートショートの異端児による怪作

この文が理解しづらい理由、それは状況説明の異常な少なさにある。まず物語の大筋をまとめた後に、その根拠を補足していきたい。

結論から言うと、これは三途の川の渡し守と、川を渡り終えた男の話である。
いつものように、死者を三途の川を渡し終えた彼女は、突然に彼から話しかけられ、珍しく川を渡り終えた後に話しかけてくる彼に興味を持つ。彼は、彼女が抱えた罪に気付き、それを肩代わりすることを提案するが、彼女は「私を背負って」と返す。彼は素直に彼女を背負い、そのまま三途の川へと入っていくーーー

〜補足〜

まずタイトルの「止まないと」は、「夜魔」と「night」をかけたものであると同時に、渡し守を「止めないと」と葛藤する心情を表している。

舞台は夜の水辺であることを読み取ることが出来る。
目を開けられないほど月明かりが眩しいのは、水面で光が反射しているから。
さらに、遠くの草が風に靡く音、水底の砂の流れる音が悲鳴や歯ぎしりに聞こえるほど、主人公が精神的に追い込まれた状況にあることがわかる。月明かりに痛みを感じる描写も同様である。

また、「某アニメの悪役」を知っていることから、彼女はかなり最近まで現世に生きていたことがわかる。だが現世で重い罪を犯し、その罪を償うべく渡し守の仕事をしていると解釈できる。渡し守は「閻魔様」の配下である。思うに、彼女の犯した罪は自殺である。彼女は現世で厳しい環境にあったことが推察される。
それゆえ人を信じることができず、彼にも不信感を抱き「さっきよりも自分を強く抱きしめる」のである。
現世で友達がいなかったため、これまでに船に乗せてきた死者達を「素晴らしいお友達」と呼び、現世で人に優しくされたことが無いため、彼の発言に動揺し、「私を背負って」と相手を困らせるような返事をしてしまう。だが、彼はそれに疑問を呈さず、彼女を背負う。その時彼女は人を信じることができるようになる。そして彼の冗談で彼女は生まれて初めて大声で笑う。そして2人は三途の川の中へと進んでいく。

結局2人はどうなったのだろうか。そのヒントは最後の一文にある。「奇妙な影(2人の影であろう)が上下に揺れながら動」いていることから、川は荒れていることが窺える。三途の川で流れが最も激しいのは、重罪人が渡る「強深瀬」である。2人の選んだのはいばらの道だったのだろうか。だが希望はある。実は、仏教において自殺が罪になるという事はどこにも明記されていない。彼女はとっくのとうに償いを終え、もう一度、生を与えられたのかも知れない。


一読した感想としては、新人作家にありがちな文学的文章に託けた何の意味も持たない無秩序な文の羅列、といった程度のものであった。
しかしその真意に気付いた時、私は己の高慢と無知を深く恥入った。この型破りな新人作家に畏敬の念を抱き、退散する。