新進気鋭の大物作家! 抽象的な表現から見えてくる本題に迫る!

新人作家による稚拙さを帯びた文章を読むことを趣味としている私だが、この文章は私の好奇心を満たすに足るだけの魅力があった。ここから先はネタバレを含め考察を進めようと思うため、まだ目を通していない読者は先に読むことを強く推奨する。一見の価値がある良作である。

〜以下ネタバレあり〜

非常に抽象的かつ形而上的な表現が多い本作だが、それぞれの表現に潜んだ意味を丁寧に拾うことで理路整然と物語が構築されていることが理解でき、隠された本題が見えることだろう。
結論から言うと主人公の「私」は人類を象徴する存在、「私」と会話を交わす者は火星であり、人類の火星移住に対する筆者の見解を物語という装置に投影しているのである。
この結論に基づくと本文の一見不可解な表現に説明がつくことがわかる。例を挙げると「遠くから草が悲鳴を上げているのが聞こえる」は温暖化の進行する地球を表し、「待ってましたと言わんばかりの光に攻撃されて」は宇宙空間での強烈な太陽光線を暗示している。この他にもこの予想を裏付けるような例は散見されるが、「さっきまで地球に背負われていたから」と言う表現には最大限の注意を払うべきだろう。これは「私」、言い換えれば人類、が地球から火星に移住したことを暗に示している。
ではこの考察が正しいと仮定すると、一体筆者は本文を通して何を伝えたかったのだろうか。その答えを得るための重要な手掛かりは「私」の会話の中に含まれている。会話では「私」が抱え込んでいる「荷物」に焦点が当てられている。会話相手は「私」の荷物を背負おうとするが、結局「私」自体を背負うことになる。先ほど説明した本文の背景を念頭において考察すると、人類である「私」の荷物とは、温暖化、戦争、差別などの現在地球で進行している諸問題なのではないだろうか。荷物を背負い切れなくなった「私」は人類
そのものを背負われる形で火星へと移ったのではないだろうか。筆者は本作を通して問題を直視せず美しい水の星、地球を破壊する人類に警鐘を鳴らしていると考えられる。
本作は新人作家としては異例なクオリティーの作品といえるだろう。彼の今後の動向に目が離せない。

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