止まないと

@kanta38

本文

遠くから草が悲鳴を上げているのが聞こえる。一体誰がこんな所に来るのだろうか。いや、来ること自体に不思議はないのだが。月が眩しくて目を開けられない。突然の静けさが訪れたかと思えば、砂が歯ぎしりをするノイズがうるさい。


「お嬢さん」


うわ、無視無視。目的は果たしただろうに。とっとと帰ってくれないだろうかと思う私を逆に無視して、男は当たり前のように腰をかけたようだ。なんとなく、少しでも動揺したら負けだと思う。私は石のように固まり、全然興味が無いふりをしてみた。静寂――――――。片目を開けてみたら、待ってましたと言わんばかりの勢いの光に攻撃されて、しっかりと身体的な痛みを感じる。某アニメの悪役は、もしかしてこんな気持ちだったのだろうか。だとしたら、私たちお友達になれそう。もっとも、私には素晴らしいお友達がたくさんいるのだけど。


私は延びをする。体が凝ったわけではない。左目をうっすら開き、体を左に倒すついでに僅かに顔を左に向ける。30前半ぐらいだろうか。それか貫禄のある大学生とかかも。ともかく、こんな時間にこんな場所で話しかけてくる人間は、どうせマトモじゃない。再び体育座りの姿勢に戻った私は、さっきよりも強く自分を抱きしめる。


「そんなに一人で抱え込んでるから、前に進めない」


「じゃあここに置いて行けばいいの」


この人は何を言ってるんだろう。全然私のこと知らないのに。ていうか、反応してしまったし。


「それは荷物になる。俺が背負ってやろうか」


私は少し考え込むふりをした。さっきから嘘ついてばっかり。閻魔様、ごめんなさい。


「じゃあ、私を背負ってよ」


私は妖艶に微笑んだつもり。でも、その男の人は私に背を向けて、手を後ろにしてきた。私の目は、さぞかしビー玉のようだっただろう、落とさないようにしなきゃ。


何とか背中に乗ってみる。さっきまで地球に背負われいたから、全然頼りない。


「ちょっとそこの飲み屋まで」


「調子に乗るな」


笑い方がへたっぴすぎて、私は大声をあげて笑ってしまった。月明かりで奇妙な怪物のような影が上下に揺れながら動いている。

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