第6話


 下駄箱に着くと、槙野くんがもう待っていた。


「よっ!おせぇじゃん、何してたんだよ?」

「べっつに〜?ね、琉璃?」

「そうだね、乙葉」

「お、おまえら、名前で呼ぶほど仲良くなったのか!?」

「えー、まあね。そういえば、槙野の下の名前ってなんだっけ?」

「城野!?おまえ俺の名前、知ってるだろ!」

「えー、でも、琉璃は知らないよ?」

「いいじゃんか、別に!」

「琉璃は知りたいよね!槙野の下の名前!」

「そうだね、知りたい」

「ぐっ!分かったよ」


 槙野くんは、そう言うと小さく呟いた。


「.....わ.....」

「えっと、なんて?」

「とわ!」

「とわ?」

「今は、ひらがな表記にしてるんだよね!漢字にすると何だっけ?」


 にっこり笑う城野さんに、「この悪魔!」と言った後、ポツリと言った。


「.......永遠」

「えい、えん?」

「永遠って書いて、とわ!ホント最悪だ。マジで」


「槙野は、名前のせいで変な噂が流れて、友達ができないんだよね?」

「変、な、噂?」


「......厨二病っぽい名前だから、厨二病を引きずって、偽名を使っているかもしれないっていう噂だっけ?」

「そう。でも、厨二病を引きずっているのは、俺じゃなくて親だ!」

「親?」


「しかも名付け方も最悪だ」

「確か、”永遠の不死鳥”だっけ?」

「そう!で、しかも状態が変わらないとか、ファンタジーな雰囲気を醸し出すからって!そんな雰囲気要らないし、頼むから親だけでもいいから変わってくれよ!」


 槙野くん.....かわいそうに.....


「親は、今も、厨二病?」

「そう!毎晩、毎晩、新しい通り名を思いついたって、言われる俺の身にもなってくれ!」


「通り名?」

「私は覚えてるよ!確か、“呪われし王族”とか“殺戮の死神”とか!あと、英語の時もあったよね!“デス・レクイエム”だっけ?」

「うわー!城野!やめろ、頼むから!それ以上、水牧に俺の親のヤバさを教えるな!」


「え〜じゃあ、明日、購買のメロンパン買ってくれたら、許してあげる!」

「はあ?購買のメロンパンって、店で売ってるやつより、たけぇじゃん!」


「ふーん、いいんだ〜!そんなこと言って!他にもストックはあるんだよ?“ミッドナイト・ブラッディー・アサシン”とか“ホーリー・フェニックス”とか?」

「うわああああ!やめて下さい、お願いします!」


「へぇー、じゃあ買ってくれる?」

「買います」

「よろしい」


「そう、いえば、購買の、メロンパン、何円?」

「えーっと、500円のワンコイン!」

「高い!高すぎる!」


「英語の、通り名は、どういう、意味?」

「えっとねー....」

「やめろ、城野!水牧が汚れる!」


 汚れるって......


「帰ろう、暗くなる」

「そうだね!じゃあ、帰りながら意味を言うよ!」

「城野!」


 乙葉と、とわくんがいるなら、もう金魚鉢はいらないかな.....


 寂しいけど、いつかこうなってたよね。


「水牧ー!」

「琉璃ー!」


 もう、呼ばれてる行かなくちゃ!


「はーい!」


 私は、大きな声で返事をして、二人に向かって走った。


 不思議とその日の帰り道は、大きい声を出すことも、長い文で話すことも、走ることも.......全部、苦しくなくなっていた。

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金魚鉢 @red_apple

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