第26話 ササケンはむかし話をしたがる
俺の後をササケンがついてくる。筋肉質でリーチのある長い手足という恵まれた体格を持ちながら、低層の戦闘は俺に任せるようだ。
「なぁ、野球やってるって言ったよな。右打ちなのか?」
ニンジンを拾っている俺にササケンが声をかけてくる。
「いえ、左っす」と俺はササケンも見ずに返した。
メジャーリーグに行ったあの選手に憧れて野球を始めた俺は右投げ左打ちなのだ。
「なら、スイカ包丁の持ち方逆じゃないか?」
ササケンが俺の手元を指差して微笑んだ。
今までは右手で持ったスイカ包丁を右上から振り下ろしていたから、両手で持つ時は右バッターの握り方だった。
逆にしてみる。
「なんかしっくり来たわ」
俺がそう言うと「先輩は敬うもんだぞ」とササケンが笑った。
その後何度か戦闘を繰り返したが、握りを変えた後には実際にドロップするニンジンとセロリも一回り大きくなっていた。
「隆晴とゆみさんとダンジョンに潜ってた時、俺らは何て呼ばれてたか知ってるか?」
オークを倒した後のダイコンをマジックバッグに詰める俺にササケンがむかし話を始めた。俺の戦いっぷりに安心してくれたとしたら少し嬉しい。
「【便利屋】だよ」
ササケンは話しながらも歩くのをやめなかった。ずんずん進み、敵を見つけるとさっと後ろに引く。
【便利屋】とは……なんか【器用貧乏】みたいなマイナスの響きがある言葉だな。
「前衛は隆晴ひとり。俺がデバフ担当で、ゆみさんはバフと回復担当ってチームだったからな。
いつしか、掲示板の横に陣取って、他所のパーティから依頼を下請けする支援部隊になっていったんだよ」
索敵も早いので、俺は彼が指差した方向に自動的に走る犬と化している。今夜も幽体離脱が捗りそうだ。
「まぁ、アタッカー隆晴が欲しい依頼と俺ら補助魔法組が欲しい依頼、色々あって楽しかったけどな」
ササケンは遠くを見ている。
「で、高校卒業とともにあの2人は冒険者を引退して堅気になって、俺は東京で役者をしながら冒険者を続けたってわけだ」
役者やってるせいか話し方がいちいちセリフっぽくて面白い。
そんなこんなでササケンがたどり着いた場所は、昨日瑠奈が勝手に触った壁際のブレーカーみたいなスイッチの箱だった。
ササケンが一番右の【どく】とマジックで注意書きがされているスイッチを上げようとする。
が上がらない。
「もしかして、これに最近触った?」
壁際のスイッチに触れようとしても触れられないササケンが俺の方を振り返る。
「はい、昨日の夕方に」
俺の答えを聞くや否や、ササケンが「マジかよ……」とガックリと肩を落とした。
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