第27話 ダンジョンマスター
「触られたダンジョンスイッチは、その後48時間触れないんだ……」
ササケンは遠くを見ている。
寂しそうな顔を見て、俺は話題を変える。
「これ、ダンジョンスイッチっていうんですか?」
という質問に、どんよりとした声でササケンが答える。
「あぁ、ダンジョンマスターが発生する魔物を切り替えるために設置するのがこのスイッチだ」
ダンジョンマスター?
俺の不思議そうな顔を見て、ササケンは驚いた顔をする。
「何だ?お前、知らなかったのか。ここは隆晴が作ったダンジョンだぞ」
さらに驚いた俺の顔を見て、ササケンが笑う。
「一から説明するとだな、日本には120のダンジョンがあるとされている。そのうち最深部まで攻略されてるダンジョンは約70ヶ所……」
とササケンは話を始めた。芝居掛かった台詞回しで、なおかつ早歩きしながら話す。なのに息切れを起こさないこの中年を、少しだけ凄いと思った。
その間もゴブリンやオークは襲ってくる。倒しながら聞く話は深い話で、冒険者でもない俺に話していいのかだいぶ心配になった。
内容は次のようなものだった。
ダンジョンの最深部に到達すると、冒険者庁のダンジョン協会から冒険者はその都度ポイントを貰える。そのポイントは、ダンジョンの階層数や広さや難易度、世間への影響、初踏破や踏破時のパーティの人数などで変わるようだ。
持っているポイントに応じて毎月報奨金が入り、さらにボーナスアイテムが貰えたりする。中には企業のスポンサーが付く基準になったりすることもあるんだそうだ。
そして、ある一定のポイントを超えた冒険者には、後進を育てる義務が生じることになる。
「それで隆晴がダンジョン装置を使って作ったのが、この【八百屋ダンジョン】なんだ」
ササケンがそう言って胸を張る。ダンジョン装置とは何なのか気になったが、話が長くなりそうなので聞くのをやめる。
「じゃあ、俺がこのダンジョンの中であたふたしてるところも、隆晴叔父さんは眺めてニヤついてた可能性もある?」
「さぁ?どうだろうな。普通に後進を育てるダンジョンなら、監視できる仕組みもあるだろうが……。アイツはそんなの考える奴じゃないし……色々忙しいからな」
俺はササケンが最後、言葉を濁したように感じた。たぶん、高位の冒険者には話しちゃいけない事があるのだろう。
1層目には今日も涼しい風が吹いている。
「で、幽体離脱で何をしたんだ?」
ふいのササケンの質問に、俺の顔が赤くしているのを感じる。
それを見て吹き出すササケン。
「大丈夫、隆晴には言わないから」
と後ろから肩を揉まれる。
おっさんは肩を揉みたがる。
「昨日、ラブホに行きました……」
俺の、生徒指導の先生に補導された時みたいな言い方がツボに入ったのか、ササケンがお腹を抑えて笑っている。
さっきまで息切れ一つしなかった中年は、喉から変な音をたてながら、
「最近【マニクール】がコンセプトラブホにリニューアルしたぞ」
と教えてきた。
はて、コンセプトラブホとは?と俺の中に疑問が浮かぶ。
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