第23話 入行2年目の女子行員と支店長

 時刻は午後11時28分、俺は繁華街の外れにあるラブホテル【シルバーストーン】の前にいる。

 まぁ、正確にいえば俺の幽体、多分周りの人からは見えていない。


 正面には、緑と白のゲートが交互に間隔を開けて連なっている。その先に【Silverstone】という文字が右上がりにアルファベットで描かれている看板があって、その横の曇りガラスの自動ドアが俺を迎えてくれた。


 高校生は法律上または、条例でラブホには来るのを禁止されてるんだろうな。


「この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません」


 なんて、ネット小説の注意書きを口にしながら、自動ドアのガラスをすり抜けた。


 中に入ると男女がいた。女は20代前半の小柄だが肉感的な黒髪セミロングの女で、身体にピッタリとした半袖の黒いニットを着ている。酒のせいか半開きの唇が何ともエロい。

 その女がしなだれかかっている男は、サラリーマン風の痩せ型の40代で、この時間でも型崩れしないクールビズのシャツにモテ男を感じさせた。


 噂に聞く部屋を選ぶ液晶の前に2人がいる。

 俺も横から覗き込むと、金曜の夜という事もあって空室は少なかった。


 空室の中で一番高い部屋を選んだ男は、すぐさまフロントから鍵を貰い、2人はエレベーターに乗る。


 狭い。3階を押し扉が閉まった瞬間、男は若い女に抱きつき軽くキスをした。


「まだ早い」


 女が低い声でおっさんを制した。

 んっ?こういう時の女って、拒否するにしても甘々で「だ〜めっ、まだはやい〜」とか言うもんなんじゃ無いのか?


「申し訳ありません……我慢できませんでした」


 おっさんが深々と頭を下げた。

 そういう関係かいっ!と俺が驚いた瞬間、エレベーターの室内灯が何度か点滅した。


「支店長になったからって調子に乗ってるのかな?」


 おっさんの耳元で吐息混じりに話す女の声を聞くと、俺の背中にもゾワゾワと鳥肌が立つ。


 エレベーターを降りて正面の部屋に向かう2人に、俺もおずおずとついていく。俺は壁をすり抜けられるから色んな部屋を巡ろうと考えていたが、今はこの2人の関係が気になり過ぎる。


 ドアを開ける。部屋は2メートルほどの廊下を進んだ先にベッドがあるタイプのようだ。部屋には甘い香りが充満していて、アウトレットによくある石鹸屋さんを思い出させた。


 おっさんはベッドの手前にあるソファーに腰を下ろす。コンビニの袋をガラステーブルに置いて、ペットボトルのお茶をぐびりと飲んだ。

 おっさんも少し落ち着きたいのかもしれない。緊張感につられて俺もこれからの時間を想像してソワソワしてくる。


 が、女が部屋へ入って来ない。

 気になったのか、おっさんが廊下へ様子を見に戻ると


「支店長、なぜ勝手に部屋に入ってるんですか?」


 女は玄関の、靴を脱いだ所に立っていた。

 あからめた頰、唇はまだ緩く開いている。


 おっさんを玄関の横の大きな姿見の鏡の前に直立させると


「本日は、野田支店長の指導係を務めさせていただきます、入行2年目の窓口担当、早川ひな子と申します」


 と女がネットリと語り始めた。


 何だこのプレイは?

 鏡越しに野田支店長と目を合わせて、すぐに後ろから抱きついた入行2年目の早川ひな子は、野田支店長の首の後ろの匂いを大袈裟に嗅いだ。


「ああ…加齢臭がいいわぁ〜」


 自分の娘でもおかしくない程の小娘に後ろからはがいじめにされている。こんな状況の野田支店長は惚けた顔をしていて、ズボンの上からでもわかるくらいに勃起していた。

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