第22話 きんぴられんこん ⭐︎
八百屋の2階のリビングに新聞紙を広げて、マジックバッグから野菜を抜き出して並べる。
セロリ、ニンジン、ダイコン、レンコン、それにらっきょうとにんにく。
「とりあえず、瑠奈ちゃんが好きなだけ取りなよ」
と、万里華さんが瑠奈に言ったので、1階の店舗から持ってきた段ボール箱に野菜を詰めていく。
まずは一個しかないにんにくを入れて、その後にセロリニンジンと詰めていく。
万里華さんはレンコンが好物なようで、全体の半分をさらっていった。
「そんな量、どうするんですか?」
「きんぴらと、酢れんこんにするのよ。隆晴さんに教えてもらった三杯酢に漬ける【酢れんこん】はほんと絶品なのよ」
と万里華さんが目を細める。
「ウチはたぶん【きんぴら】です。さっき母からコンニャク買って来いってメッセージが来てました」
マザコンを疑う2人に
「連絡はダンジョンに潜る為の条件だから」と俺は慌てて否定した。
野菜の配分が終わった。2人は明日の土曜は来ないが、野菜の味見をした後で来週来るかどうか決めるそうだ。
土っぽい野菜が多かったので部屋に軽く掃除機をかけて、俺たちは店を出た。
「馬券が当たったら教えてくださいね」
と俺が2人に言うと
「あんたもラブホで見たことを教えなさいよね」
と万里華さんが返す。その声が商店街のアーケードに響いたので、隣にいる瑠奈が恥ずかしそうに万里華の肩を叩いた。
お互い笑顔で手を振って別れる。17時過ぎのアーケードはまだ明るかった。
夕食のきんぴられんこんには、れんこんの他にニンジンも入っている。れんこんは繊維に沿って縦に細く切ってあって、家族が揃う食卓にはれんこんを噛む音が響いていた。
姉のさくらは目を閉じてため息を漏らす。
「他の野菜はおぼろげだったけど、れんこんは他所の野菜の味とは段違いね」
「そりゃ、今は時期じゃないからな」
と父も黙々と食べている。
「ところで翔吾、隆晴は見つかりそうなのか?」
父が俺に話を振ってきた。
俺は悩む。正直ここ数日、ダンジョンに潜るのが面白いのと幽体離脱の謎の解明する事のせいで、叔父を探すという本来の目的を忘れていた。
突然現れた美女2人や、女子バスケ部の海老沢の事もある。
「やっぱり、あんたも私らの血を継いでるわ」
と母が言って、父が眉をひそめながら頷いた。
「お前の母も昔はダンジョンに潜ってたからな」
と父が言うので、姉が目を大きくして驚いた。
「一緒に潜ってたのは、隆晴とあと1人は誰だったっけ?」
と、父が聞く。
「ササケンよ」と母が言った。
【ササケン】は、我が家唯一の有名人の知り合いである。母と、父の弟の隆晴と同じ高校の同学年で、他校にも名が知れた学年一のイケメンであった。
その後、イケメンっぷりを見込まれて上京した彼は、学生劇団に所属しながらオーディションを受ける日々を送った。テレビや映画で幾つもの端役をこなし、そして現在も変わらず端役をこなしている。
「最近の代表作って何だっけ?」
姉が母に聞く。
母はササケンの活動を追いかけている数少ないファンの1人である。
「健康食品のCMよ。
ソファーから立ち上がる時に『イテテッ』って言って膝を抑えてたわ」
黙って聞いていた祖母がお茶を吹き出しそうになる。
「アイツがTVに出る度に、自分の歳を感じるんだよな……」
父がそう言って食卓は笑いに包まれた。
【れんこんのきんぴら】
①れんこん、ニンジン、こんにゃくを細く切る
②こんにゃくを3〜4分炒める
③れんこんとにんじんを加えてさらに炒める
④さとう、酒、しょうゆを加える
⑤ゴマかけて出来上がり
れんこんは出始めの頃は縦切りで、旬から名残りの時期は輪切りが良い。
れんこんを入れるタイミングで唐辛子を入れても良い
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