第14話 2層目
叔父の八百屋の2階、エアコンの効いたリビングで今日やらなければならない事を考えた。
女バスの海老沢に渡す野菜を持ち帰る。ピクルスを食べない時と食べた時にスピードが上がるのか検証する。昨日見つけた洞穴を探索する。幽体離脱の時間を出来るだけ稼ぐ。
おむすびの包装をまとめて学校の鞄に仕舞い、母親に『行ってきます』のメッセージを送る。
すぐさま『たまには掃除機くらいかけなさい』との返事がきた。確かにタダで使わせて貰ってるからな…。感謝の気持ちでリビングに掃除機をかける。今日は木曜日、毎週木曜は掃除機をかける日にしよう。
「丸森翔吾、ダンジョン4日目参ります」
今日も爽やかな1層目、風が吹き樹々の緑が揺れる。
明日はここで昼飯もいいな、と周りに魔物がいないか確かめた。
まずタイムの測定、100メートルくらい先のもみの木で折り返してここまでのタイムを測ろう。足を中心に準備運動をした後、マジックバッグからスマホを取り出した。
久しぶりに全力疾走した。ちょっとだけアップダウンがあったので、かかったタイムは58秒。肩で息をしながら、ペットボトルのお茶を飲む。息が整うのを待って、ピクルスの瓶を開けるた。セロリを1本ポリポリと食べてもう一度走る。
52秒。同じように走ったつもりなのに速くなっていて、これはどうなのかと思いながら、息を整えニンジンも食べる。
もう一度、今度も53秒、変わらなかった。あとはアイツらに確かめてもらおう、俺は海老沢のニヤけ顔を思った。
何匹かのニンジンとセロリを狩って、目的の洞窟が見えてきた。
ここがただの洞窟なのか、はたまた2層目への入り口なのか、ドキドキを感じつつ下り傾斜を降りていく。
10メートルほど降りると、下り坂は階段に変わった。壁は暗い青色の石造りで、天井は高い。スイカ包丁を持った右手を上に伸ばしたが、天井には届かなかった。
左手の懐中電灯が階段の出口を照らす。
降りた先には、体育館サイズの広い空間が見えた。
2層目だな……。
降りてきた階段と天井の高さから、そう推測できる。階段と同じ石造りの空間、ところどころに3メートルほどの太さの柱が天井を支えている。
「なんか床が揺れてるんですけど…」
よく見ると15センチほどの何かがそこらで
スイカ包丁では分が悪い。武器を電撃のシャッター棒に持ち替えた。
「無理そうなら速攻帰る!」
強く自分に言い聞かせて、一歩2層目に降り立った。
床を行き交う虫は、蜘蛛のようではあるが、触覚と体付きは蟻である。石の床をカサつく音がうるさいことに、同じフロアに降りて初めて気づいた。
大きくシャッター棒を振りかぶる。高めのボールを叩きつけるようなスイングで一番近くの蟻にヒットさせると、轟音がして周辺10メートルの蟻が光の粒になって消えた。その周りには痙攣してひっくり返る蟻の群れがいて、さらに外側の蟻はどこかへ消えていった。
「蜘蛛の子を散らすように……って蟻だけど」
足元の何かを踏まないように進んで、気絶する蟻に電撃を喰らわせる。カサつき音が消えたのを確認して、足元の野菜を拾った。
「らっきょう?」
小さな黄色がかった白い物体は、漬物になる前の生のらっきょうだった。
周辺に散りばめられた蟻だったらっきょうを見ながら、拾う手間を考えた。
「昼間の掃除機みたいに、マジックバッグが吸い込んでくれたらいいのに…」
一粒ずつ拾う俺は、試しにリュックサックの蓋を開き「らっきょう」と口にしてみた。
『収納or取り出し?』
機械女の声が聞こえる。
「収納!」と言うとらっきょうがリュックサックに入っていく。
一斉に入っていく様は、駅前のヒヨドリの大群を思わせた。
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