第7話 オークは大根を落とす
ダンジョンに落ちているカード、何のドロップ品なのだろう?などと思いながら、俺は手を伸ばした。
裏返ったカードをめくると【鍵がかかっているかわかる】と書かれている。何だこれと思った瞬間、カードは光の粒になって消えた。
『おめでとうございます。【鍵がかかっているかわかる】のスキルを獲得しました』
またあの声だ。機械風の女性の声が頭に響く。
「え⁈スキルって選べないの?」
『………』
まただ。こいつはコチラの質問に答えない。
つまりは、敵を倒すとスキルが書いてあるカードが落ちる事がある。そしてそれに触れるとスキルを覚える事が出来る。
「なるほど、それで箸か」
叔父の手紙の一節『あと箸とかトングとかピンセットを持っていったほうが良い』の意味がわかった。
叔父はカードの中身を見る前に、箸を使ってカードを裏返していたのだろう。
初めてのスキルが【鍵がかかっているかわかる】って何だよ。ぶつぶつ言いながらゴブリンを刈っていく。
そんなだから、油断があったのだろう。
不意に魔物の襲撃を受けた。ソイツは俺より二回り大きい魔物、オーク。猪の顔と大柄な人間の体を持つ魔物だ。
急な襲撃を金属バットで防ぐが力が強い。繰り返し振り下ろされる棍棒に防御一辺倒になった俺の金属バットを、オークが左手で掴み振り回す。
力強く振り回されて、バットから手が離れた俺は2、3メートル離れた地面に飛ばされた。
何とか受け身をとった俺は、すぐさまリュックから予備の武器、スイカ包丁を取り出した。
「こんな事なら、こっちの使い方も練習しとくんだった」
包丁を右手に持って、体の前に構える。
どんと、足音をたててオークが近づいてくる。振り下ろす棍棒をスイカ包丁で受ける……。
つもりだったが、棍棒がスッパリと切り落とされた。
俺とオークは、えっ?といった感じで目があった。
俺はまた、叔父の手紙の一節を思い出した。『その辺にあるスイカ包丁かシャッター棒を武器にすりゃなんとかなる』
叔父よ、こういうのはスイカ包丁が特別な武器だって事を書き添えたほうが親切だと思うぞ…。
オークは、振り下ろされたスイカ包丁によって肩から真っ二つになった。
「マジでびっくりしたわ…」
地面に落ちている大ぶりな大根を拾う。街のスーパーに並んでいるものよりだいぶ大きい。
ん?さっき拾ったニンジン、昨日より大きくなかったか?リュックのニンジンをもう一度確認する。
何でドロップするニンジンの大きさが変わる?
試しに次見つけたニンジンゴブリンは、スイカ包丁で切って捨てる。
デカい。昼過ぎの金属バット一発の時よりニンジンがさらにデカい。
つまり、与えたダメージが野菜の大きさになるって事か?
俺は武器を金属バットに戻してゴブリンに向かう。
後ろからそっと近づいて後頭部に一発、しかしゴブリンは倒れて痙攣はしているが、さらさらと消えない。
「昨日に戻った……」
俺は倒れたゴブリンに止めを入れた。そこには昨日と同じ小ぶりなニンジンが落ちていた。
意気消沈したおれは、一旦、店に戻ってネットで調べようと思った。このままわけがわからん事が多いと気が散る。
こんなスキルが選べないダンジョンが余所にあるのか。ダメージとドロップ品の関係性、何故昼過ぎと夕方で俺の攻撃力が変わったのか。
疲れた頭の中を整理しながら、俺は店に戻った。
あっ、今日は幽体離脱のために、体をくたくたに疲れさせるんだった……。
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