第2話 晩御飯のあと

 その日の晩飯のあと、祖母、母、姉、そして父の順で例の手紙を読んで回す。


「そのドア開けてみた?」


 興味深そうに姉で大学生のさくらが聞いてきた。


「いいや、まだ」


 俺は首をふる。


「あんたはたかさんと違って用心深いもんね」


 という母の言葉に


「俺に似たんだ」


 と父が頷く。


「ねえ、このスイカ包丁って何?」


 母の言葉に、すかさず姉がスマホで検索の結果を見せる。覗き見た感じだと、でかいスイカをカットするための包丁か。刃渡りは40センチほど、刃が四角い菜切り包丁が長く伸びた形をしている。


「じゃあシャッター棒は…」


 と母は自分のスマホを触って結果を義母に見せている。

 シャッター棒、太さ2センチ、長さ70〜90センチ程度の鉄の棒の先に、平仮名の『つ』の形の金具が付いている。高い所にあるシャッターを閉める為の器具である。


「子供の頃、商売道具で戦ったら何屋さんが強いか議論ってあったじゃん。

 こう見ると八百屋も意外と戦えそうだな」


 父が呑気にほざいた。弟の心配なんて少しもしていないみたいだ。


「たかさんのこと心配じゃないの?」という母の問いにも


「まぁ、笹本さんも一緒にいなくなってるみたいだから……大丈夫でしょ」


 と父が笑みを浮かべた。


 笹本さんというのは父と一緒に働いていた青果店の社員で、主に得意先の飲食店へ野菜や果物を配達する役割をしていたおじさんだった。叔父よりも5歳ほど上だったが、体つきは硬そうな筋肉質で叔父よりも若々しかった。


「ふーん、父さん調べたんだ」


 父は、笹本さんの立ち寄りそうな飲み屋で何軒か聞き込みをしたらしい。姉と目が合うと、父はえへへと照れくさそうに笑った。


「ところで翔ちゃん」


 母が背すじを伸ばして声のトーンをひとつ上げた。


「さっきガタガタと物置を漁ってましたが、もしかして武器や防具を探していましたか?」


 何故に敬語なのだ。俺はちょっとだけ目を逸らしてしまった。


「あなたは今、腰痛で野球部を休部中なのですよ、なのにダンジョンなんて入っていいんですか?」


 母のまっすぐな視線が痛い。


「まあいいじゃないか、俺らが子供の頃は中学生だってダンジョンに入ってたんだし。

 それに、あいつのダンジョンは野菜が落ちてるんだろ?お袋が作る市民農園の野菜よりはだいぶ美味しい野菜が落ちてきそうだぞ」


 と父が話して母の機嫌を直そうとするが、その言葉で今度は祖母がヘソを曲げた。


 紆余曲折の末、俺は夏休みの補習授業の後に、安全を最大限に気にしながらという条件でダンジョンに潜れることになった。


「最初は魔物を狩るのに躊躇するかもしれんが、倒すとサラサラと砂みたいに消えちゃうからな。そのうち何も気にならなくなってくるから思い切り行け。

 魔物なんてのは、ダンジョンっていうでかい木になる果実だと思えよ」


 などと若い頃に自分がダンジョンで経験した話をして、皆自室に戻った。


 魔物はデカい木に実る果実か。

 親父め、たまには良いことを言う。

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