道具じゃないことの証明を。

三門兵装

海観て一杯。提灯と

 死のうと思う。それがどんなに阿呆らしいかは分かっているつもり。


 …いや、分かっているだったから私はここにいるのかも知りやしないけれども。


 私はもはや道具のようで、自主性もなければ、意欲もない。なんで自分から動くのかが不思議なくらいだ。


 今日は夏祭りで、親はきっと私が夏祭りに行っていると信じているのだろう。だけどね、私は夏祭りを楽しむ資格なんてないんだ。道具は祭りの主人公じゃないのだろう?


 友達でもいたら違うのだろうが、お生憎様。道具にはそんなものいやしない、せいぜい街の屋台で買ったこの提灯、道具仲間ぐらいだろうか。


 提灯は私の足元を照らしてくれる。だけど、私を導いてくれることもなければ、道のうんと先までもを照らしてくれたりはしない。


 道具はそんなものだ。私を助けてくれるけど、その先のヒントをくれるだけ、導いてなどくれやしない。


 私もそう。この先に思いは馳せる。だけれども自分で選ぶことなど無いに等しい。結局は集団持ち主に弄ばれるだけなのだ。


 ねぇ海。貴方は私を受け入れてくれるかな。海は道具を拒絶するらしい。拒絶されたゴミは海に浮くか、ほとんど受け入れられないままに地中へ沈む。


 仮にもし、私が道具じゃないのなら、私が意識を持った者ならば、苦しみは与えても私を受け入れてくれるのだろうか。そんなことを考えながらペットボトルを仰ぐ。


 安っぽい果実の香りが鼻を貫いた。


 海観て一杯。


 提灯、お前はもう独りぼっちだね。

 あぁ、違うな。お前は私がいなくてもまだ受け入れてくれる人がいるのか。羨ましいよ。


 あぁ、羨ましいよ。


 なんだか無性に腹が立っていて、思わず私は提灯を投げ捨てていた。ほうら、私はお前の持ち主なんだ。


 海は提灯を拒絶して、そいつは海の上を虚しく漂っている。当り前か。やっぱりお前に心なんてものはないよな、私が勝手に妬んでいただけだったのか。


 そんなに鋭い言葉を浴びせたのに、けれども何もできない提灯が何だか私と重なって見える。揺らぐお前は、まるで私を誘うかのようだ。もしかしたら本当に誘っているのかも。


 あぁ、


 提灯、私、道具は持ち主を導かないなんて言っていたね。でも続けるよ、持ち主は導かなくても同類は導いてくれるらしい。お前は私の友人か?最も、道具が道具を同類と認めたら、それは自我が芽生えることに等しいから結局私たちは人になるのかもしれないが。


 くるくると手のひらを返す私はお前から見るとさながら悪魔だろうか。道具だから何も感じない?そんなことないよな、お前なら。ペットボトルを仰いで最後の一口を飲み切ってしまう。相方がもう海の中だからか、寂しい味だった。


 海観て一杯。


 私はきっとお前を妬んでいたのだろうさ。そんな安っぽい理由がこんな安っぽい私にはお似合いだ。


 ありがとう、お前のおかげで踏ん切りがついた。


 太陽が私を照らす前に。昏い空が私を隠すうちに。そう言い聞かせて堤防へ足をかける。


 提灯、もしも私が受け入れられなかったなら、二人仲良く海に浮こう。でも、もし私が受け入れられたなら、お前も一緒に来るんだぞ。


 一世一代の運試し。さぁ、海。私を道具でないと証明してくれ。


 堤防を蹴った。潮の味がする。月が綺麗だ。不思議と、気持ち悪くはなかった。


 月見て一杯。


 提灯、残念ながら塩水しかないが許してくれよ。


 私の意識は昏い昏い闇の中に消えていった。

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