第24話

 時が経つのは早いもので、夏凪が亡くなってからもう十年が経った。俺は自身の夢を叶えて、ロボットを作る企業を立てた。まだ小さな会社だが、先日、大手企業との共同企画が決まって、少しずつ名も売れるようになってきた。もちろん、彼女の夢のことも忘れていない。出版社に掛け合い、昨年、ようやく出版を叶えた。彼女の小説『たった100ページの人生だけど』は、彼女の素直な言葉が多くの人の心に響いて、大ヒット作品となった。俺も毎日のように読んで元気をもらっている。

「社長、取引先の香坂さんがいらしております」

「わかった。応接室に案内しておいて。俺もすぐに行く」

 俺はハンガーからジャケットを取ると駆け足で部屋を出て行った。


 彼が出て行った部屋を静かに覗く。机の上には、読みすぎてよれよれになった一冊の本がある。私はそっと風を吹かせてページを捲る。少し加減を誤って、一気にぺらぺらとページが捲れる。すると最後のページが開かれた。最後の一行には、

「ありがとう」

 そのたった五文字が、優しく笑っていた。

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人生最後の一行を君に 白藤しずく @merume13

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