第3話 闇の旅商人の薬①
こちらの2000字が導入ですので、こちらから先にお読みください
▼闇の旅商人と笛吹の少年▼
https://kakuyomu.jp/works/16818093083817581070/episodes/16818093083817593042
異界への穴がそこら中に口を開けていた時代、レバンジという旅商人が怪しい商品を売りながら歩いていた。
レバンジは、とある村にたどり着いた。見ると村自体はなかなかに大きく、家々もしっかりした作りで、きちんと整備された田畑があり、豊かそうだった。レバンジは村に入った。
すると、ごつくて不潔そうな髭を生やした一人の男がやってきた。村の繊細に手入れされている様子とは印象が違う。
「何か用ですか?」
「ええ、私は旅商人のレバンジと申します。ちょっと変わった物を売ってまして。ご希望があれは作ることも。良かったら、村長さんに会えますかね?」
男はふーん、と言いながら髭をさすった。じろじろと頭のてっぺんからつま先まで見られる。
「じゃあこちらへ」
と、村の奥の屋敷に連れていかれた。
♢♢♢
屋敷に通され、座敷で待っていると小柄な爺さんが現れた。他に二人の男。さっきの髭面と、さらに一回りでかい大男。
「ワシはこの村の村長ヘイジと申す。よくこんな辺鄙なところを歩いてましたな」
「レバンジと申します。ええ、私もまさかこんなところに村があるとは思わず。随分綺麗な村ですね。道もしっかりしてるし、池や草花もよく手入れされている。そういう場所には異形が入り込みづらいのです。これは村長さんのご指示で?」
ヘイジはかっかっかっと笑った。歯は黄ばみ、ところどころ欠けている。
「いやワシにはそのような知恵は無くてね。この村に住む僧侶がまめなのだよ」
「それはそれは。ぜひお会いしたい」
そう話してると、一人の中年の女が茶を出しにきた。目鼻立ちがしっかりしていて、いわゆる美人だ。服をきちんと着こなしていて、そっと茶を出す所作からは、村の中でも立場がある女に感じた。男たちの汚らしさには釣り合わなかった。
「その前に品物だが、どんな物を売っているのかね?」
「色々ありすぎるのです。どんな物がご希望か言ってもらえれば」
「そうだなぁ、やはり若さだろうか。寄る年波には勝てぬ。昔の無理がたたっておってな」
「そうですか。ではこれならいかがでしょう?」
レバンジは手のひらにおさまるくらいの小瓶を取り出し、蓋を開けた。蓋には棒が付いている。
「手の甲をお出しください」
ヘイジが言われた通りにすると、レバンジは手の甲に一滴垂らした。
「舐めてみてください。非常に甘いです」
ヘイジはペロリと舐める。
「おお……確かに甘い……。これは何なんだ?」
「何かは秘密ですが、それを一滴口にすれば、いわゆる健康と若返りが。明日までくらいなら効果がありますよ」
そう言ってレバンジは、小瓶を腰に下げた小さな袋にしまった。
ヘイジは口をもごもごさせ、天井を見上げている。
「ヘイジ様、いかがですか?」
髭面男が訊いた。
「……うむ……なんだかそう言われれば、そうなっている気がするな。体に力が入るような。呼吸も楽だ。もう少しお試しできんかね?」
「一気にたくさん口にすると、異形になります。明日の同じくらいの時間にまた一滴試しましょう。それで気に入ったら買ってください。お代は……」
レバンジが値を口にすると、三人は驚きの表情をした。
「街の屋敷一軒分じゃねぇか……! たかがそんな小瓶、どうせ、薬草やら精のつく魚の肝やらを入れてるだけなんだろ?」
髭面男は腹を立てて言った。
「まあ、私は買ってもらわなくてもいいので。単にコレを譲るなら、値がそうだというだけであって」
髭面男はイライラし、大男は呆気にとられた顔をしていた。ヘイジは真剣に何かを考えているようだった。
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