Episode11:「ひとりの勇者が、魔王を討伐した」
「でも、確かにこの森のモンスターって増えてるッスよね」
リョーガが言うと、ルイが
「モンスターって、昔はたくさんいたけどメッチャ減ったんでしょ?」
「そうね……」
ヤマオカ氏の
ヤマオカ氏は記憶を探りながら、リゼットに問いかける。
「確か40年ぐらい前だったかな?」
「……ええ。正確には38年前ね。アタシたちが生まれるよりずっと前に、もう世界のモンスターは激減していた」
「ひとりの勇者が、魔王を
リョーガがなぜかリゼットのほうを注視しながら言うと、リゼットはイヤそうな表情で眉間にシワを寄せた。
(……?)
話が見えないトーコの困り顔に気付いたらしい。リゼットは「うーん……」と喉から絞り出すような声を上げてから、言葉を選ぶようにして言った。
「……別にそのままの話よ。人間が魔力を持ち始めたのがほんの80年ほど前。魔力の発現と同時に、世界にはどういうわけか大量のモンスターがあふれたって伝わってる。でも38年前にモンスターの親玉みたいなものが討伐されて。モンスターはいまや絶滅状態」
「へぇ」
初めて知った。おそらく世間では常識なのだろうが、なにしろ絶賛記憶喪失中なのだ。まだまだ世の中には、自分の知らないことがたくさんある。
「モンスターの個体数は年々減ってて、このままのペースならそろそろ絶滅するって学院で習ったけど」
ルイが焚き火に手をかざしながらそんなことを口にする。
「まあ当然ね。簡単な反比例よ。この世界に生まれる魔術師の総数は年々増えているのだから、モンスターはどんどん退治されて減っていく。いずれ絶滅するってのが通論よ」
「ところが、この森では、モンスターが確かに増えているんだ」
と、ヤマオカ氏。
「……どういうことよ」
リゼットが
「どういうことなんだろうなあ」
全く頼りにならない社長なのであった。
確かに、先ほど一同は大型のモンスターに遭遇して、それなりの危機に陥ったばかりである。
思わず怯んでしまうほどの巨体。その攻撃力は計り知れない。もしかすると大きな魔力だって持っているかもしれない。
そんな凶悪なモンスターがこの森にどれだけ潜んでいるのだろうか。
そう考えると少し背すじが冷える。
「そういえば、さっきのでっかいドラゴンは、オレがとりあえず倒してきたッス。社長、あとで処理して給料に色つけてくださいね」
「は!?アンタ、あの短い時間であんな馬鹿デカいドラゴン倒したの?」
リゼットが驚きの声を上げた。
「あはは、まあ……。あ、ところで
リョーガがニコニコと目を細めて魚の串をリゼットに渡そうとする。リゼットはうんざり顔で焼き魚を眺めた。
「アタシはいいわ……トーコにあげて」
「え?え!?」
ヒョイと渡され、考えるより先に受け取ってしまった。もらったはいいものの、食べ方が分からない。
リョーガは別の串を炎の中から取り出してルイにも渡す。それからさらにもう1本を手に取り、こんがりと焼けた魚の腹にかぶりつく。
「うん、美味い!」
真似してかぶりついてみることにした。
「あ、熱っ!あ、でも美味しい……」
意外と身がホクホクと詰まっていて、淡白だけどじんわりと美味しかった。たまには大自然の中でこういったものを食べるのもいいかもしれない。
「もう体は平気なんスか?」
嬉しそうに魚をパクつくトーコに、ニコニコと細い目で笑いかけるリョーガ。
「あ、うん。元気だけど……」
脳天気に答えてしまった。おそらくリョーガが問いたかったのはそういうことではないんだろう。
強烈な頭痛のあと、突然この森に飛ばされた。そのからくりが判然としないのだ。
自分の身に、一体何が起こったんだろう……。
「元気なら良かったッス」
リョーガはそれ以上追及せず、細い目をもっと細めて笑った。
自分の身に起きた異変のことはよく分からないけれど、かといって様子見するよりほかに方法はないような気がする。
とりあえず、突然の頭痛には気をつけておこう、とトーコは思った。
リゼットはそんなトーコとリョーガのやりとりを見ながら、何か考え込んでいるようだった。
炎の近くにいるのに、その肌はどこか青白い。
リョーガは食べかけの魚をなぜかさらに火で炙りながら、社長に声をかけた。
「ところで社長に来た依頼の主って、あれじゃないッスか?例の山奥の、混沌魔術研究所……」
(混沌魔術?)
意味の分からない言葉だな、という思いのあと、突如訪れた強烈な記憶の混乱。
「ああ、あの“人さらいの研究所”か。どうなんだろうなあ」
(知ってる……?)
目の前で、天を焦がすように大きな炎が赤々と燃える。
「もしあそこからの依頼なら、深入りしない方がいいと思うッスけど……」
(私、それ知ってる……?)
パチパチとはぜる炎の向こうに、なくした記憶の片鱗がフワリと
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