第12話 姉妹丼

 相変わらず両手で胸を隠したままオレのことを睨みつけている少女。


 最大限に警戒しつつ、いつでも逃げ出せるように機会を伺っている様子だ。


 彼女の中では、オレは完全に不審者なのだろう。

 ……まぁ、故意ではないとはいえ浴室に無断で侵入してしまった事実は変わらないので警戒されても仕方ないのだが。


 どうしたものかと思い、何となく周囲を見回してみる。


 今さらだが浴室はかなり狭く、古くて小さいバスタブがひとつあるのみだ。

 四方の壁は木造で、先ほどからすきま風が入ってきている。

 彼女には失礼かもしれないが、非常にみすぼらしい浴室だなという印象を受けた。


(あんまり裕福じゃないのかな……まぁオレも他人のことは言えないけど)


 両親が離婚してからは狭いアパートに母親と二人で暮らし、生活保護に頼っていた時期もあったほどだ。


 そのため、お世辞にも豊かな暮らしをしていたとは言えない。


 だから、この狭い浴室にも少しだけ親近感がわいていた。


(前の世界で暮らしていたアパートの風呂に似てるから、ちょっと落ち着くな……)


 ……と、そんなことを考えていたまさにその時だった。

 浴室の外から可愛らしい少女の声が聞こえてきたのだ。


「……おねえちゃん! わたしも入っていい?」


 その声に目の前の少女が反応する。


「……エミア!? 今は入ってきちゃ……」


 おそらく「入ってくるな」と言おうとしたのだろう。


 だが、遅かった。


 すぐに浴室の扉が開き、これまた全裸の女の子が入ってきたのだ。


 年齢は10歳前後といったところで、目の前の少女を幼くしたような顔立ちをしており、髪も少女と同じ銀色のロングヘアだ。

 体はまだまだ未成熟で、特に胸はペタンコだが、肌はとても美しい。

 外見がシャワーを浴びていた少女にそっくりだし、先ほど浴室の外から「おねえちゃん」と呼んだことを考えると、二人は姉妹で間違いないだろう。


 そんな幼女がオレに気づき、じっと見つめてくる。


「……おにいちゃんはだれ? おねえちゃんのお友だち?」


 普通、自分の家の風呂場に知らない男がいたら警戒するはずだが、まったくその様子はなかった。


 オレのことを特に怖がったりせず、ただ好奇心のままにこちらを見つめるのみだ。


 しかも、全裸だというのに体を隠そうともしない。


 おそらく警戒心や羞恥心が薄いのだろう。


 おかげでオレの方が目のやり場に困ってしまった。


「エミア! ここは今非常に危険ですから早く出ていってください! この不審者は私が何とかしますから!!」


 少女が自身の妹に言い聞かせる。


 しかし好奇心旺盛な妹はまったく聞く耳を持たず、無警戒にオレに近づいてきた。


「おにいちゃん、変な格好だね〜。こんな服、初めて見たよ」


 そして、オレの着用している紺色のブレザーやズボンを物珍しそうに観察し始める。


(……何だ? この世界ではブレザーが珍しいのか……?)


 学校の屋上からこの世界に飛ばされたオレは現在、高校の制服姿だ。

 元の世界では珍しくも何ともないごく普通のブレザーなのだが、ここでは奇抜な格好に見えるらしい。

 無邪気で好奇心旺盛なこの幼女が興味を持つのも当然だろう。


(この子ならもしかしたら話を聞いてくれるかも……)


 何となくそんな気がしたため、オレは思いきって事情を説明することにした。


「え〜と……エミアだっけ? 言っても信じてもらえるかはわかんねぇけど……実はオレ、この世界の人間じゃないんだよ」


「……どういうこと?」


 案の定、エミアはきょとんとした表情でこちらを見つめている。


 さすがに今の説明だけでは理解はできなかったようだ。


 オレは自分の身に起きたことを詳しく話し始めた。


「オレはこことはまったく違う世界で生まれ育ったんだけどな……変な悪魔に突然異世界に飛ばされちまったんだよ。それで気づいたらここにいたってわけだ」


「……じゃあ、おにいちゃんは異世界の人なの?」


「この世界の人間から見たらそうなるな……」


「そうなんだ……すごい! わたし、異世界の人と話してる……」


 エミアは目を丸くし、非常に驚いている様子だった。


 しかし、その表情からオレの話を疑っているわけではないことがわかる。


 思った通り、他人の言うことを素直に信じるタイプなのだろう。


 疑うことを知らないのは少し心配になるが、今はその素直な性格がとてもありがたかった。


 だが、エミアの姉らしき少女の方は先ほどからオレのことを警戒し続けているため、まったく話を信じようとしない。


「そんな嘘に騙されるわけないでしょう……エミアもこんな意味不明な話を簡単に信じないで下さい」


 むしろ、身の上話を逆に警戒心を強めてしまっただけのような気もする。

 

 彼女を信用させるハードルはより一層上がってしまったようだ。


 しかし、慎重な姉と対照的な性格のエミアは警戒するどころか、さらにオレに近づき腕に抱きついてくるのだった。


「ねぇねぇ、おにいちゃんの住んでた世界の話を聞かせてよ!」


「……え? い……いや、その前にエミアは服を着ないと……」


 全裸の幼女に抱きつかれ柔らかい感触が伝わってきたことに戸惑い、まともな返事ができなくなってしまう。


 その状況を姉が見逃してくれるはずもなく、オレとエミアを引き離そうと近づいてきた。


「エミア!! 危険だから近寄ってはいけないと言ったでしょう!!」


 自分の妹を守るため必死な様子の少女。


 しかし慌てていたためか、彼女は濡れた床で足を滑らせてしまうのだった。


「……きゃっ!!」


 悲鳴を上げて前のめりに倒れる少女。


「うわっ!!」

「おねえちゃん!?」


 当然オレとエミアも彼女の転倒に巻き込まれ、そのまま後方に倒れてしまう。


 結果として、オレは全裸の美少女とその妹に抱きつかれる形で床に尻もちをつくことになった。


(……や、柔らかっ!!)


 少女の豊満な胸の感触と、その妹のツルペタな胸の感触が同時に伝わってくる。


 それは、彼女いない歴=年齢で、女子とほとんど接点のなかったオレにとってはあまりにも刺激が強すぎるハプニングだった。


 正直、理性を保つのもそろそろ限界だ。


(オレ……どうなっちゃうんだろうなぁ……)


 短期間にいろいろなことが起きたせいで体も頭もかつてないほど疲弊し、オレの思考は完全に停止してしまっていた。

 


 

 


 

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現実世界で恵まれなかったオレ、憐れまれて異世界に飛ばされる 梅竹松 @78152387

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