あんたたち!何してんのよ!
私、ケラシーはものすごく疲れていた。
自分の体から魔力が吹き上がるところなんて初めて見た。それだけ膨大な魔術を展開して、私はあの最高の
思考を使い果たして、私はふらふらになりながら教室へと戻る。自由解散だったけれど、私はこの学院の中で一人になったら迷子になる自信がある。だから、学生寮に連れて行ってくれる先生の後についていっていた。
引率の先生についていく中、あれだけの実力を示したというのに、私は相変わらず最後尾。これでも入学首席だという文句は鋼の意思で飲み込んだ。別に、並び順で偉さや実力や評価が決まるわけでもないのだけれど、なんとなくなめられている気分だ。綺麗なドレスや、騎士服をきた貴族の同級生の中には、忌々し気に私を睨む人すらいた。
筆頭はあのとんでもない美人さんだ。まあ気持ちはわかる。あの人からしたら、たくさん人がいる教室で私とやりあって、その挙句魔術の実力で黙らせられたようなものだもの。
だからと言って、私を目の敵にしようとする態度は気に入らないけどね!
そうやってむかむかしながら歩いていたとき。たくさんの魔術を連続で使う気配がした。魔力の揺らぎがだいぶ大きくて、それだけ実力のある人が魔術を使っているらしい。もしかして、上級生の人が模擬戦でもやっているのだろうか。
「もしかしたら、すごい魔術を使っているところを見られるかもしれない!」
さっきまでの嫌な気分が全部吹っ飛んだ!胸がどきどきと高鳴る。どんな魔法だろうか、色は、展開は、そもそもの術式は?気になることはいくらでもある。
だから私は、魔術が使われている場所に行くまで気づかなかった。
どんどん人気がなくなって、薄暗くなっていくことも。普通は入らないような道をいくつも抜けたことも。複数人の男の声も。応戦しているのがたった一人だということにすら。
狭い路地のような道を抜けて、目の前が開けた時、私は唖然とした。
銀にギラリと鈍く光る刃が、細い首に迫っていく。仕立てのいい服はあちこちが擦れて汚れ塗れ。下卑た表情で笑う屈強な男。なけなしのように展開された魔法障壁は、きっと羊皮紙よりも脆い。下手人に掴まれた腕は、折れそうなくらい細かった。それが誰かなんて、気にしている暇もない。
だから、気づけば私は思わず大声を出してしまった。
「あんたたち!何してんのよ!」
そして同時に、大量の魔力を込めた衝撃波で男たちを吹っ飛ばす!腕を掴まれていた人は、男に摑まれた腕が急に軽くなったことに体が追いつけずに尻もちをついてしまった。私はその人を背に庇い、吹っ飛ばした男たちを睨みつけた。
「もう!こんなに寄ってたかって一人をいじめるなんて。あんたたちほんと最低!いいわ、全員私が相手してあげる。まとめてかかってきなさいよ!」
私の心の中の想いはただ一つ。こんな外道のすること、絶対に許さない!
「はっ、随分と威勢のいい嬢ちゃんだ。どいつもこいつも女ってやつぁ生意気で仕方ねえな!」
そう叫んだ一際屈強な男が立ち上がるのを合図に、男たちは襲い掛かってくる。拳や剣に膂力が上乗せされた攻撃が、多方面から私に降り注ぐ。
「もう!埒が明かないわね。『護りの
男たちの攻撃を見切ることなどできないので、魔力にものを言わせて障壁を張る。その後広範囲の殲滅魔術をでたらめにブチかましながら、どうにか背後の人を守れるように立ち回った。けれどそれでは男たちの俊敏な移動には追い付かず、こっちが攻撃を喰らうばかり。障壁は定期的に張りなおしているものの、本当に持久戦でこちらがじりじりと削れていく未来しか見えなかった。
そこで、私は一番固い魔術結界を背後の人にかける。これは私の作った特別魔術。私が放つたいていの攻撃魔術は、この結界を壊せない。
「『全ての力よ、我が手に集い顕現せよ!死の
手を祈るように組み合わせ、とびっきりの魔力を込めた一撃を放つ。これも私の特別魔術。広範囲に魔術衝撃波を飛ばし、周囲にいる人の意識を刈り取るほどの暴風が荒れ狂う。けれどこれはすべて魔術によって起こされるものなので、魔術障壁や結界をある程度強く張れば影響を受けない優れモノだ。
ドン!!!!!!!!!!!!!
辺り一帯の地面が、私を中心にひび割れる。一メートルほど飛び上がった男たちは空中で気絶し、そのまま地面に落ちて散らばった。何か所からかゴキっと嫌な音がしたが、足か手が折れただけのはずだ。
「『
魔術で気絶した男たちをぎっちり縛り上げ、私はぱんぱんと手を払う。これにて一件落着、というやつだ。
「大丈夫?痛い所とかあったら治せますけど……ってあなた!」
振り返り、魔術結界を解除して初めて、私は自分が守った人が誰か気づいた。
そこには、ぼろぼろでもなお退廃的な美しさを纏うあの人がいた。
平民だからってバカにしないで! 鉄 百合 (くろがね ゆり) @utu-tyu
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